香蓮がスマホ画面に視線を落とすと、着信は達夫からだった。
「驚かせてすみません。父からです」
「え?」
玲志の驚いた声を聞いて、香蓮の心はさらに沈む。
昨日朝と昼に達夫から何度か電話がかかってきていたのだが、幸せの絶頂から不幸に引き込まれそうで香蓮は電話に出られなかった。
玲志はただ震え続けるスマホをじっと見ている彼女の姿に胸を痛め、ついにスマホを奪う。
「玲志さん?」
「俺が話す。君は無理するな」
短く言葉を切った彼は通話ボタンをタップし、耳にスマホ画面を当てる。
「お義父さん、ご無沙汰してます。何か用ですか?」
香蓮は玲志の心遣いに感謝しながら、速くなった鼓動を落ち着けようと深呼吸した。
(お父さんの名前を見るだけでも、すごく苦しい。もう、あの家と関わりたくない)
この一か月は玲志の愛に溺れ、香蓮は飛鳥馬家での辛い記憶を無意識に抹消しようとしていたのだ。
玲志は達夫と数分話し、ため息をつきながら電話を切る。
「……金の話だ。俺に言いにくいから、香蓮に連絡してきたんだろう」


