歩き出すと、佐々木君は私が傘を持つ手元に目をやった。
「俺が持とうか。入れてもらってるし」
こういう場合は男が傘を持つだろう派の考えの女子もいるのは私も知っている。否定はしないが、私はそっち派ではなかった。
「ううん。そう言ってもらうのありがたいけど、私、傘持つの好きだから。持たせて」
「傘持つの好き?」
「そう」
「変わってるな……」
「よく言われる……」
隣でまた、佐々木君がふっと笑う。
あれ。これ、やっぱりキモい女だと思われて引かれて失笑されてるんじゃないかと怖くなって隣を見た。すると馬鹿にしているような顔つきではない。
沈黙の時間ができるのに耐えられそうになく、私は佐々木君に質問をぶつけてどうにか会話を続けようと試みた。
「あのさ、佐々木君はどうして傘ささないの?」
「傘さすのダルいから」
「ダルい? それだけ? それだけの理由でいっつも雨の日、濡れながら帰ってるの?」
「やっぱ見てた?」
墓穴である。
いっつも、という発言のせいで、今日だけではなく何度も佐々木君を近くで目撃していたというのがバレてしまった。
普段多弁ではない人間が無理してお喋りをしようとすると、ろくなことがない……。
私は自分の頭を叩きたくなった。今日は本当に、余計なことばかりしている。
「俺さ、何しててもなんかダルいわけ。親にも先生にも若いんだからもっとはきはき行動しろとか言われるけど、多分これ、性分なんだよ。カッコつけててウゼーとか同級生に陰で言われてるのも知ってる。でもどうにもならないし、どうしようとも思わない」
佐々木君は淡々と語り、私はそれを、前を向いて聞いていた。
「それで、雨の日は特に気持ちがしんどいんだよ。なんか憂鬱で。天気悪いといつも以上に学校行きたくねーし、でも休むわけにもいかねーし、って感じ。傘手に持って移動するのもしんどい。で、開くのもしんどい。畳むのもしんどい。だから持ちたくない」
そういう意見もたまに聞く。折り畳み傘などは、便利だけれど畳む作業が億劫だという人もいた。
「佐々木君ってめんどくさがりなんだ」
「端的に言えば、そうかな」
佐々木君は微苦笑を浮かべる。
「教科書、水吸ってぐにゃぐにゃになるの嫌じゃない?」
と指摘すると、佐々木君は己の鞄を叩いた。
「ビニールに入れて、防水はばっちり」
「傘さすのはめんどいのに、中身の防水に気を配るのはちょっと笑っちゃうかな」
「人間ってまあ、そういう、矛盾を抱えて生きる生き物だからな」
冗談めかして佐々木君は哲学的なことを言うが、要するに、傘を持つという行為が特に億劫なだけなのだろう。
「俺からも聞きたいことあるんだけど、香月って傘何本持ってるの?」
私はまばたきを繰り返した。
「だってさ、毎回別の傘さしてるじゃん。そんなにたくさん傘持ってる奴って珍しくない?」
「……見てたの……?」
蚊の鳴くような声で私は聞き返す。
「俺が持とうか。入れてもらってるし」
こういう場合は男が傘を持つだろう派の考えの女子もいるのは私も知っている。否定はしないが、私はそっち派ではなかった。
「ううん。そう言ってもらうのありがたいけど、私、傘持つの好きだから。持たせて」
「傘持つの好き?」
「そう」
「変わってるな……」
「よく言われる……」
隣でまた、佐々木君がふっと笑う。
あれ。これ、やっぱりキモい女だと思われて引かれて失笑されてるんじゃないかと怖くなって隣を見た。すると馬鹿にしているような顔つきではない。
沈黙の時間ができるのに耐えられそうになく、私は佐々木君に質問をぶつけてどうにか会話を続けようと試みた。
「あのさ、佐々木君はどうして傘ささないの?」
「傘さすのダルいから」
「ダルい? それだけ? それだけの理由でいっつも雨の日、濡れながら帰ってるの?」
「やっぱ見てた?」
墓穴である。
いっつも、という発言のせいで、今日だけではなく何度も佐々木君を近くで目撃していたというのがバレてしまった。
普段多弁ではない人間が無理してお喋りをしようとすると、ろくなことがない……。
私は自分の頭を叩きたくなった。今日は本当に、余計なことばかりしている。
「俺さ、何しててもなんかダルいわけ。親にも先生にも若いんだからもっとはきはき行動しろとか言われるけど、多分これ、性分なんだよ。カッコつけててウゼーとか同級生に陰で言われてるのも知ってる。でもどうにもならないし、どうしようとも思わない」
佐々木君は淡々と語り、私はそれを、前を向いて聞いていた。
「それで、雨の日は特に気持ちがしんどいんだよ。なんか憂鬱で。天気悪いといつも以上に学校行きたくねーし、でも休むわけにもいかねーし、って感じ。傘手に持って移動するのもしんどい。で、開くのもしんどい。畳むのもしんどい。だから持ちたくない」
そういう意見もたまに聞く。折り畳み傘などは、便利だけれど畳む作業が億劫だという人もいた。
「佐々木君ってめんどくさがりなんだ」
「端的に言えば、そうかな」
佐々木君は微苦笑を浮かべる。
「教科書、水吸ってぐにゃぐにゃになるの嫌じゃない?」
と指摘すると、佐々木君は己の鞄を叩いた。
「ビニールに入れて、防水はばっちり」
「傘さすのはめんどいのに、中身の防水に気を配るのはちょっと笑っちゃうかな」
「人間ってまあ、そういう、矛盾を抱えて生きる生き物だからな」
冗談めかして佐々木君は哲学的なことを言うが、要するに、傘を持つという行為が特に億劫なだけなのだろう。
「俺からも聞きたいことあるんだけど、香月って傘何本持ってるの?」
私はまばたきを繰り返した。
「だってさ、毎回別の傘さしてるじゃん。そんなにたくさん傘持ってる奴って珍しくない?」
「……見てたの……?」
蚊の鳴くような声で私は聞き返す。



