雨と傘。好きなものが増える、梅雨

 いつも気怠げな彼は、雨の日になるといっそう怠そうに窓の外を眺めている。
 そんな後ろ姿を見るともなしに見て、私はとある不安を覚える。

 ――今日も、また?
 そうでなければいいんだけど……。

 * * *

 佐々木君がまた、数メートル先を歩いている。
 こうしてよく同じ時間に帰宅路を歩くことになる理由はきっと、私達がお互いさっさと学校を出て家を真っ直ぐ目指すからなんだろう。

 私は学校が特別嫌いじゃないけれど、すごく好きというわけでもない。仲良しの友達は部活動があることが多くて、一緒に帰れない日は、私はすぐに学校を出る。
 そうして、家が近い佐々木君をよく見かける羽目になる。

 大体佐々木君が前を歩いていて、私が後ろ。これだと毎回後をつけているみたいで非常に気まずい。だけど、わざと歩くのを遅らせたり追い抜いたりして、意識してると思われるのも嫌だった。
 私は悪いことをしているわけじゃない。家が近いんだから仕方ない。だからいつもひっそりと、こちらに気づきませんようにと祈りながら歩いていく。

 佐々木君。佐々木澪君は、私と同じクラスの帰宅部の男子。
 顔は整っているけどいつもかなり怠そうでノリが悪く、顔面評価に重きを置いている女子を除けば評判はあまり良くはない。私はというと、正直佐々木君にあまり興味がなかった。なんか怖そう、くらいである。

 だから。

 だからあまり、関わりたくなかったんだけど。

(まただよ……)

 私は佐々木君の背中を見つめながらため息をつく。佐々木君は常に気怠そうな上に、足運びものろい。そんなのろのろ歩く佐々木君よりゆっくり歩き、私は悩んだ。

(どうして佐々木君、傘、ささないんだろう)

 私が佐々木君の後ろを歩く日は、雨の日が多かった。そして大体、佐々木君は傘をさしていない。
 どうかしてると思う。今は梅雨のシーズンで、雨の日が多いのだ。今日だって天気予報は朝から雨で、だから傘を持って来られたはずなのだ。

 佐々木君の後ろ姿はしっとりと濡れている。当たり前だ。傘もささずにだらだら歩いているのだから。
 そして私が何に悩んでいるのかというと。

(傘、入る? って言いたい……)

 深い理由があるわけではない。ただ、濡れているクラスメイトがずっと視界に入っているのが気になって仕方なかった。自分は傘をさしているし、大きめの傘だから二人で入るのに支障はない。

 とはいえ、だ。
 ほとんど会話もしたことがない男子に気さくに声をかけられるはずがなかった。何こいつ、って無視されたら、たぶん、すごく傷つくと思う。