「……モモコ、私は貴方と恋仲であるのに、貴方の笑顔を1度も見たことがない。」

「……上手く笑えないんです」

馬に揺られながら、私はわたる様と会話を交わす。
馬に乗っていると、彼と初めて出会った日を思い出す。

「着いたぞ。ここが平野だ。」


馬を下りると、そこには限りなく広い緑地の平野が広がっていた。
1部の背の高い草は、爽やかな風に吹かれて優雅に踊っている。
辺り一面が緑だというのに殺風景にはならず、むしろ綺麗だった。

「わぁ……」

「綺麗だろう?……貴方がよく映える。」

新庄は、モモコの頬に唇を落とした。

「あ……」

辺りをキョロキョロとするモモコを見て、新庄は笑った。

「誰も見てはいない。大丈夫だ。」

新庄は、彼女の手を取ると、指を絡ませた。

「これは、恋仲同士がする繋ぎ方だ。」

「恥ずかしいです……」

「……何、先程は口付けを交わしたというのに、手を繋ぐことが恥ずかしいのか。貴方、あまりにも今更では無いか?」

新庄は、少し天然なところがあるらしく、恥ずかしいと思うことを平気で言う人だ。

「言わないでください……」

「…その反応は…照れているのか?」


「あ、わたる様、あ、あそこにお花畑が見えます」

「話を誤魔化すでない。」

「綺麗ですね。遠くから見ても。」

「そうだな。もう少し近づいてみようか。」

花畑の近くへ寄ると、遠くからでは見えなかった小さな花までもが見え、色とりどりに咲き誇っていた。

「……わたる様、」

私は、わたる様の手をギュッと握った。

「私がここの世界に来た時、急に飛ばされた感じでした。ですから、いつ私が元の世界に飛ばされるか分かりません。……今のうちに、伝えたいです。」

私は、彼と向き合った。



「私は、貴方のことを一生忘れません。」

彼は少し驚いていた様子だったが、すぐに微笑んだ。

「あぁ。……私も、貴方のことを忘れない。忘れるはずもない。」



彼は、私の頬を両手で覆うと、そのまま唇を合わせた。



「貴方のことを、こんなにも愛しているのだからな。」