うららかな日差しの中で、厳しい冬を超えた喜びを歌にして口ずさむ。そしてその身を強固に覆っていた(ころも)を脱ぎ捨て、解放感と生きる幸せを胸に、鮮やかな景色の主役となる。

 そう。それは春。あまねく生き物が力強く輝く出会いの季節。そして……。
 
「恋の季節……やなぁ……」

 おれが呟くと、爽やかな春の妖精が窓から実習室へと舞い込んできた。

「嗚呼……世界が薄紅色に色づいとるでぇ……なんて美しいんや……これが恋……」

 すると今度はさっきより少しばかり暴れん坊な春の妖精が乱入して、机の上の鉛筆や絵皿を吹き飛ばしていった。ヒデとヨネがアワアワと声を上げながら、吹き飛んだ物を拾い始める。
 
「開けすぎなんだよ」

 一切感情のない声で言いながら、浅尾っちがピシャリと窓を閉めた。妖精さん、ちょいと暴れすぎやで……。

「すまんすまん!恋の甘さに酔っとってな!」
「なになにー?一佐くん恋しちゃったのー?」
「お、ヨネは恋バナ好きかぁ?」
「大好物ですよぉー」
「猿の発情期はもう終わってるはずだけどな」

 浅尾っちは相変わらず素っ気ない。無表情のままそう言うと、すぐにそっぽを向いて自分の制作に集中し始めた。せやけど、その毒舌にLOVEを感じる。愛やで、愛。

「いや実はなぁ……今日学校に来る時、運命の出会いが」
「おっとぉー?いるのは君たち4人だけですかねー?」

 おれの恋バナをぶった切ったのは、マキちゃんの呑気な声やった。

「なぁんかみんな学校に来ないですよねぇー。まぁやることやっとけば別にいいんですけどねー。あ、今日は17時で実習室閉めたいんだけど、いいですかー?いいですよねー?僕が早く帰りたいんですよー」
「あれーもしかして……マキちゃんデートぉー?」
「やだなーヨネちゃん!照れちゃうじゃないー!って、彼女いないんだけどねーあははははは!」

 いつの間にか“マキちゃん・ヨネちゃん”の仲になっとるし。さすがヨネやな。そしてマキちゃんも彼女おらんのか。嗚呼、同志よ……。

「今日は歯医者さんなんですよー。歯が痛くてですねー削ってもらわないといけなくてですねー。なので17時には鍵閉めちゃいますのでーそれまでに片付けして帰ってくださいねー」
「りょうかいでぇーす」

 そういや、マキちゃんとヨネの喋り方は何となく似とるな。のぉんびり間延びした喋り方。せやけど、似た者同士でロマンスが生まれる気配は一切ない。

 そもそもマキちゃんって歳いくつなんや?いつも無精ヒゲでむっさいオッサンて感じやし、三十路は過ぎてそうなんやけど。

「あーそうだ、浅尾君」

 一度部屋を出ようとしたマキちゃんが振り返る。

「明日の午後で時間のある時、研究室に来てくれって岡田教授が言ってましたよー。公募の件だそうです」
「ああ、はい」
「じゃっ!あと1時間半ぐらいしたら、みんなちゃんと帰ってくださいねー」

 パンパンと両手を叩いて、今度こそマキちゃんは部屋を出て行った。