雨の日だけの秘密の顔で

雨の帰り道の伊吹くんの横顔は、やっぱりちょっとアンニュイ。
じっと見てたら、目が合っちゃった。

「無理に笑わなくていいって言ってくれただろ。あれさ」
「うん」
「ほっとしたんだ。だから、こーいう顔は、水沢の前でだけな」

わたしだけ。
その言葉に胸が高鳴る。
きっとそんな深い意味はない、はずなんだけど……。

あれ、でも深い意味がないとしたら。
なんだか悲しいような。

待って、わたし、ちょっと高望みな期待しちゃってる?
ダメダメ、身のほどしらずになっちゃう。


それでも話しながらクレープ屋さんに着く。
やっと気持ちが落ち着いて、安心する。

ふたりともチョコバナナクレープを注文。
伊吹くんは本当におごってくれた。

「もっと食べていいのに。トッピングするとかさ」
「悪いよー。これでじゅうぶん」

それにしても、ちょっと意識しちゃう。
こうやって2人でクレープ食べながら話してたら。
まわりからはカップルに見えたりして。


と。
急に伊吹くんが言った。

「あのさ、俺と同盟、しない?」
「ドーメイ……同盟?」

突然だし、なんのことなのかわからなかった。

「雨の日同盟」
「雨の日同盟?」
「雨の日の放課後さ、俺に付き合ってくれない?一緒帰るだけでもいいし」
「それは昨日とか、今日みたいな感じってこと?」
「そう。だめ?」

正直、わたしは地味な女子で。
伊吹くんと一緒にいるとあんまりよく思われない気がするけど……。

「水沢しかいないんだ、頼めるの」

あ、そのアンニュイな顔。
うう、なんだかすごく胸に刺さる。
だから思わず、うなずいちゃったんだ。

「いいよ、わたしでよければ」

そこから、わたしたちの『雨の日同盟』が始まった。