雨の日だけの秘密の顔で

「でも、笑ってなくても大丈夫だよ」
「……」
「無理して笑うことないって。つらいときはつらい、それでいいんじゃない?」

たまたま元気がだせなくて笑ってなくても、伊吹くんのよさは変わらないと思う。

「それにさ、雨だとわたしもやっぱりちょっと憂鬱な気分なるよ。濡れるし」
「そりゃそうか」

そこでやっと伊吹くんはちゃんと笑った。
そのことが、なんだか嬉しかった。

「……いいやつ。水沢って」
「そうかなあ?」
「水沢の前だけかも。自然にしてられるの。ありがとな」
「それはその……どういたしまして?」

思いがけないお礼を言われたから、変な答えになっちゃった。
びっくりしちゃうと挙動不審になっちゃう。

わたしと伊吹くんは顔を見合せて笑った。