雨の日だけの秘密の顔で


傘をさして、通学路を並んで歩く。
偶然だけど、わたしたち、家の方向も一緒だった。
相変わらず伊吹くんの表情は冴えなくて、いつもとは違っていた。
気になって雨越しに横顔を見ていると、

「さっき気をつかってくれたんだろ。ありがとな」
「ん?ううん。全然。大したことは何もしてないよ。(一緒に帰ろうって言われたことはびっくりしてるけど)」


答えたら、伊吹くんに少しだけ笑顔が戻った。
うんうん、良かった。
ゆっくり歩きながら話し始める。


「俺、梅雨が嫌いなの。嫌なこと思い出すから」
「嫌なこと?」
「この時期だったんだ。入院してた母さんが死んだの」

それを聞いてはっとした。
お母さん、亡くなってたんだ……。

「ずっとずっと雨が降ってた。こんな感じの梅雨の日に、死んだんだ」

伊吹くんの表情は、教室にいた時と同じ。
アンニュイ、っていうのかな。
それって、つらい気持ちをひとりぼっちで抱えている顔だったんだね。

「あれから、梅雨になるとなんか良くないことばっかりだよ。だから嫌いなんだ、雨が」
「それであんな顔してたんだ……」
「ちゃんと笑えてなかった?」

わたしはうなずいた。
でも――。