雨の日だけの秘密の顔で

わたしは、水沢恵那(みずさわ えな)。
ごくごく普通の高校生の女子。
自分で言うのもなんだけど、すごく平凡。
勉強ができるわけでもないし、可愛いわけでもない。

欠点ならいっぱいある。
いまいち明るくなれないところ、ちょっと人見知りなところ……。
あと、とにかく忘れ物が多い。すぐに慌てる性格のせいかも。

それで今日の放課後も、机に忘れたノートを取りに戻ってきたんだけど……。


そこで、伊吹くんを見た。

雨を見ている伊吹くん、を、見ているわたし。
伊吹くんの横顔は、なんていうかきれいだ。とびっきり憂鬱そうだったけど。

教室に入るに入れない。
そのまま何分くらい経ったのだろう。


「ん、水沢?」
「ふぇっ!」
「なんだよ、『ふぇっ』って。天然か」
「いや、天然とかでは……。ただ、びっくりして」

伊吹くんは、いつの間にかわたしに気がついていたみたい。
ちょっと気まずそう。

「水沢、いつから見てたの?」
「たぶん、結構前から。あのさ」
「なに」
「なにか嫌なことでもあったの?話聞こうか?」
「あー……」