雨の日だけの秘密の顔で

ぽつぽつ、ざあざあ。
教室の窓の外はしっかりと雨。

そんなの、梅雨の今どきは、別に珍しくもない景色。
でもわたしはそこから目がはなせないでいた。

そのわけは、ひとりのクラスメイトの男子。
じっと窓の外の雨を見つめている彼の横顔に、どきっとしたから。


彼は、伊吹悠(いぶき ゆう)くん。

伊吹くんは、いつもにこにこしてて感じのいいイケメン。みんなの人気ものだ。
男子とも女子ともよく話す。友達の少ないわたしと違って、だいだい誰かに囲まれている。

でも、今日の彼はひとりだった。珍しく。
ひとりのところを見るのは初めてだったかも。


ひとりでいる伊吹くんは、いつもみたいな明るい笑顔じゃない。
なんだか浮かない感じで、暗い雰囲気までする。
そしてぼんやり雨を見ているのだ。


いつもあいさつくらいはするけど、彼とはそんなに仲が良いわけじゃない。
でも、ちょっと心配。
なんとなく声をかけづらくて、わたしは教室の入口に突っ立っていた。