「あ、ごめん。靴紐がほどけた。」

少し先を歩く橘君に声をかけ、しゃがみ込み、靴紐を結び直す。
雨で手が滑り、靴紐を結び直すのに少し手間取ってしまう。やっと結び直して顔をあげると、いつの間にか真っ白い霧であたりが覆われており、自分がやってきた道も、橘君の姿も見えない。
雨の山の中に一人、取り残されたようで急に心細く感じる。

「橘君、近くにいるの?」思い切って呼んでみるが返事はない。