お寺は山道を少しいったところにある。雨でぬかるんだ道はスニーカーだと少し歩きにくい。

「うわっ。」滑って転びかけたところを橘君が手を掴んで支えてくれる。

「大丈夫?」

「あ、ごめん。ありがとう。」

「結構、痛む?」

「少し」

「そう」

再び沈黙。

「あのさ、橘君、授業のとき、いつも窓の外眺めてるけど、先生の質問答えられるでしょ。あれってどうやってるの?」
しまった。こんなときにする話題ではなかったかもしれない。しかし、逆にこんな機会でもなければ、もう橘君と話せる機会などないかもしれないと思うと、自然と質問が口をついて出ていた。

橘君は一瞬面食らったような顔をしていたが、すぐに視線を逸らした。
「別に。聞かなくても大体分かる。」

「なるほど。」
なんともそっけない。

「いつも何考えているの?なんだかいつも退屈しているみたい。」
「そう?」

「いつも窓の外眺めてるけど、何か見える?」
「別に何も。」

もはや目線も上げずに最小限の返事が返ってきた。
智ちゃんやクラスの女子が言うように会話が続かない。そもそも自分とは話したくないのではないかと感じるレベルだ。智ちゃんの言うことは正しいのかもしれない。

『イケメンだけど、クールでちょっと近寄りがたい感じ。観賞用にはいいけど、彼氏には向かない。』

内心で首を振る。別に私は好きとかそんなんじゃなくて、授業中の綺麗な横顔がなんとなく気になるだけ。窓の外を眺める視線の先に映るものや、時々目が合っては逸らすあの瞬間に何を考えているのかを。