視線の先にあるものは

笑い飛ばさないと立てなくなりそうで、敢えて冗談めかして告げる。

「そうだったんだね。私はてっきり、ときどき橘君と目が合うの私のこと見てるのかと思ってた。幽霊が私についてて、それが気になって見てたんだね?ありがとう、心配してくれて、あと助けてくれて。
答えたくなかったらいいんだけどさ、いつも窓の外眺めているけど、そこにも何か見えていたの?」

橘君が少し照れたように笑う。長雨の合間に現れる日差しのような微笑み。
「あの教室の窓、光の加減で結構反射するみたいでさ。雨の日は特に、酒井さんがこっちをじっと見てるのが、窓ガラスに映って見えるんだ。だから僕もつい窓ガラス越しに見つめてた。」

「えっ?」

「幽霊じゃない。僕が気になって見ていたのは君なんだ。色々あって、人と上手に話すのは苦手だし、素気ない態度とってるから何言われても気にしないって思ってたけど、陰口止めた方がいいなんて、入学当初、よく知りもしないやつのために、あんな風に言ってくれる人もいるんだなって思って嬉しかった。そしたら時々、チラチラこっちを見ているから、可愛くて。」

なんかもういろいろ恥ずかしすぎる。
自分の感情がジェットコースターのように上がったり下がったりしていて、よく分からない。ただ顔がほてっているのだけは分かって、思わず俯いてしまう。