視線の先にあるものは

「酒井さん、気づいていないかもしれないけど、たぶん色んなものを引き寄せるんだ。
さっきの幽霊もたぶん遊びたくて、自分の世界に引っ張ろうとしたのかな。」
私が青ざめるのを見て、橘君が慌てて言葉を足す。

「でも、もう大丈夫だよ。気配を感じないから。それに、寄ってくるの悪いものばかりじゃないかもしれないから。・・・俺もその一人かもしれないし。」小さく付け足された言葉は雨音にかき消され、上手く聞き取れなかった。

「えっ?」

「俺さ、小学生のときは周りに見えること言っちゃってたの。そしたらクラスメートが怖がっちゃって。俺は嘘つき呼ばわりで、そっから誰とも話さないで一人でいることにした。だから、時々話しかけられても、どう返していいかわかんなくてさ。そっけない返事ばっかりしちゃってごめん。」

「そうだったんだね。」
事情も知らずに、横顔に見惚れていたことに罪悪感を覚える。そして同時に、がっかりする気持ちを抑えられないことで、自分が密かに期待していたことに気づく。


思い返せば、橘君と目が合うのはいつも雨の日だった。
目が合ったことで、橘君ももしかしたら少しは自分のことを気にかけてくれているのかもしれないなんて考えていたことが恥ずかしい。そして少し寂しい。

橘君が見ていたのは私じゃなかった。
私についた幽霊を気にしていただけ。