視線の先にあるものは


橘君は、手を膝につき、息を整えている。おそらく由奈を見つけて、ここまで走ってきたのだろう。
今見た女の子はなんだったのかとか、見つけてもらったお礼とか、他にも聞きたいことや伝えたいことはあるのに、言葉にならない。
思わず地面にしゃがみ込む。

「俺さ、雨の日はなんとなく見えるんだ。」

ぽつりと橘君がつぶやく。
何がなんて、言わなくても分かる。

「だから、酒井さんに何かついているのはなんとなく感じてたのに、変なやつって思われるのも、怖がらせるのも嫌で、見えること言えなかった。しかも霧で見失なってはぐれちゃうなんて、最低だよな。危険な目に合わせて、本当にごめん。」
そういって、橘くんはしゃがみ込んだ私に深く頭を下げる。

「そんなことないよ。橘君のおかげで助かった。ありがとう。」
まだ心臓はドキドキしているが、やっと話せるようになってきた。