インストールを開始しますか?

「へ、変ってなにが?」
 
わざと明るく聞き返した。

「うちのママね……わたしの塾、解約しちゃったんだ」

「え⁉︎ ……そこまでやったの?」
 
カスタマイズ・ママに入力した奏美からの命令は"勉強しなくても文句言うな"だったはず。
 
奏美は一カ月間、遊びに回っていてもなにも言われない自由をまんきつしたんだ。
 
奏美が眉を寄せてうなずいた。

「わたしが知らないうちに、いつのまにか。"わたしが勉強しないでいいように"だって。わたし、そこまでしてほしいって意味じゃなかったんだけど」

「奏美、勉強が嫌いってわけじゃないもんね。じゃあ、あの命令を消したら?」
 
わたしが言うと、奏美はゆっくりと首を横にふった。

「やっぱり愛梨も気づいてなかったんだ。あの命令ね、五日連続同じ命令を続けたら、取り消せなくなるんだよ」

「え……? そうなの……?」
 
わたしの背中を冷たい汗がつーってつたった。

「うん、アプリのプライバシーポリシーてとこに小さい字で書いてあった。五日後にまたべつの命令を入れれば、少しずつ自分の思い通りのママになっていくでしょ? カスタマイズママってそういう意味だったんだよ」
 
わたしは胸がざわざわする。
 
取り消せないってことは、ママはもう元に戻らないってこと?
 
わたしは命令してからのママの姿を思い出そうとする。
 
けどあまりうちにいないから、よくわからなかった。

「ねえ、愛梨。わたしちょっとこわい」
 
奏美が言う。
 
わたしは意識して笑みを浮かべた。

「だ、だけどさ、もうこれ以上命令しなければいいんでしょ。今命令したことが取り消せなくてもそれくらいなら」

「だけどうちのママ、わたしが勉強すると怒るんだ。モールに行かなくなったこの一週間、わたしうちで勉強しようとしたんだけど、見つかるとわーって気がくるったみたいに参考書を全部捨てられてさ」

「そうなの……?」
 
わたしは笑みを引っこめる。
 
もう笑う余裕なんてなかった。