インストールを開始しますか?

次の日の朝、校門をくぐったわたしは足速に教室をめざしている。
 
胸がドキドキして、早く由希奈と奏美に会いたかった。
 
教室につくと、ふたりはもう登校していて後ろの席で向かい合わせに座っている。

「おはよー」
 
手をひらひらさせて笑うふたりに近よってわたしは興奮したまま口を開いた。

「ねぇ! あのアプリ本物だよ! 効果あった。今日、ママに朝ごはん食べろって言われなかった!」
 
今朝、髪をセットしようと洗面所に向かうと、ダイニングテーブルには朝ごはんが準備してあった。
 
でもいつもみたいに、食べろってママは言わなかった。
 
寝ぼけた頭で今日はなんか変だなと思いながら髪をセットしていたわたしは、ドライヤーを止めたところでアプリことを思い出したんだ。
 
まさか本当に?
 
で、試しに『朝ごはんはいらないから』ってママに言ってみたんだ。
 
そしたらなんとなんと。

『わかってる。髪型がキレイに決まることの方が大事だもんね』
 
ママはにっこり笑ってそう言ったんだ。
 
あのママが!
 
こんなことを言うなんて、アプリの効果だとしか考えられない!

「だから言ったじゃん」
 
由希奈がニヤリと笑ってカバンからサイフを出す。
 
中から一万円札が出てきた。

「え? またもらったの?」
 
昨日の一万円は、三人でポップコーンを食べながら映画を観て、フードコートでクレープを食べたらなくなった。
 
だからまたここに一万円札があるってことは、またもらってきたってこと。

「今日もモール行く?」

「うん!」
 
由希奈からの誘いにわたしは、すぐに答えて気まず思いで奏美を見た。

「あーだけど水曜日は、奏美、塾か」
 
奏美がピースをした。

「うちの親、もう勉強しろって言わなくなったから、サボっても平気なんだ!」
 
あ、そうか!
 
奏美、昨日アプリでそう命令してたっけ。

「『いつも頑張ってるから好きなだけ遊んできていいよ』だって」

「マジで? 効果ばつぐんじゃん! あーわたしもそういうのにすればよかった。遅く帰っても文句言うなって」
 
わたしははぁとため息をつくと、由希奈が身を乗り出した。

「明日からそうしなよ。うちのママからは毎日お金をもらえるからさ、わたしたちずーっと、だれにも文句言われないで遊び放題だよ!」