宇佐見ゆう。私の名前。至って普通の20歳。今年ピチピチの自称ゲーマーはたち!リアルでは訳あって陰キャの自分だけど、ネットでは割とゲームの募集かけたり参加したり、第2の人生満喫してるんです。

さて、今日のぼしゅーはー…

んぁ、無言フォロー。いやよくある事ではあるけれど、相互さん30人くらいでやってる自分にはとても珍しい事で。アイコンをタップすれば映し出されるプロフィール。

暇な時にゲームしてます!と書かれたあとに、様々なジャンルのゲームが名を連ねている。

「TRPG…」

ぼそり反射で自分の口からはその言葉が出ていた。確かに興味は中学の頃からあるし、でも周りに趣味の合う子がいなくて入門するのを諦めた思い出。懐かしいなーと思う反面、もしかしたらなんて希望もあった。

もし、この人と仲良くなって、もし、TRPGの話題が出たら。

「してみたい…」

フォロー、返すくらいならいいよね。うん。フォロー…返すだけ、だから。

ボタンを押す手は止まらず、その日は気にせずにそのまま違うクエストに参加した。




「んしゃー…募集、かけるかー」

クエスト募集@3
超エンジョイ!
不穏×
通話ディスコ
聞き専おk
通話なしおk

まぁ集まるのは10分後くらいだろう。フォロワー多いわけじゃないしいつもフルパなんて揃わない。でも出すだけならタダ、なんて自分に言い聞かせていたらピコンっと返信の音。

「えめずらし」

思わずそう声が漏れた。通知を見れば、前繋がったあの人。まじかよ。え、ほんとにゲームしたくてフォローしたんかい。正直なところよくあるフォロー稼ぎかと思ってた。

ーー参加していいですか?

ーいいですよー通話どうします?

ーーディスコいけます!

ー鯖のリンクこれです!参加お願いします!野良含めて始めても大丈夫ですか?

ーー大丈夫です!

なんか、いつもより緊張する。え、なんでこんなソワソワしなきゃいけないの。いや落ち着け自分。いつも通り。そう、いつも通り。

ピロロン

「あ、はじめましてーよろしくお願いしまーす」

『初めましてよろしくお願いしまーす』

おっと男性めっちゃいい声。全然珍しくない。このゲーム男女比半々くらいだからね。うん。

「なんて呼べばいいです?」

『あー…名前だいふくでしてるんでそのままだいふくでいいすよ』

「だいふくさん!おっけーです」

『ゆうがさん…でいいですか?』

「大丈夫です!さっそくクエストいきますかー」

『そうっすね』

「あー自分、敬語苦手なんで…タメ大歓迎です!」

『タメ語っすか…』

「無理にとは言いませんけど、ゆるーくお願いします〜」

『了解です』

ゲームが始まればこっちのもん。こっちから敬語外しつつナイスとか来てるよとか言えば自然と皆敬語が外れていく。まぁ外れない人もいるけど。でもエンジョイだからその位の空気感の方が自分も楽しいし。


あっという間に3時間。報酬うまうまだしだいふくさんめっちゃ上手いし。なんか申し訳ないくらい上手だった。

「お疲れ様ですーめっちゃ楽しかったです!」

『こちらこそ楽しかったです』

「またやりましょー!」

『またお願いします』

めっっっっちゃ、楽しかった。意気投合とかそういうレベルじゃない。会話のテンポもいいし趣味も合うし。

これはこれはこれはまじで、凄い人と巡り会えたのではないか。




あれからというもの。何度か募集に来てくれるようになって気づいたら敬語も緩くなっていた。

「今日もお願いしまーす」

『お願いします』

いつも通りゲームを開始しようとしたその時。
ぴろん、とゲーム画面に広がる通知。

「緊急、めんて…」

『…あー……どうします?』

「んー…でもせっかく時間合わせてもらったし…よければ雑談でも…します?」

『………えーと』

「いや、嫌ならいいんです!」

『お話、しましょ』

「え、いいんすか…」

『うん、前から話してみたいと思ってたから』

え、なにそれ。なんか、めっちゃ嬉しいんだが。確かに2人で固定組んでクエスト行くようになったけど!!けども!!!

「えーと…えー……趣味はー…?」

『…ふふふ、がっちがちじゃないすか』

「改まって雑談ってなるとコミュ障なんで、あのー…」

『分かります分かります、人と話すの難しいっすよね』

「あー…あのー…プロフィールんところにTRPG趣味って書いてあったじゃないすか…」

『そうすね』

「自分も好きなんすよ!TRPG!」

『え、まじすか』

「リアルではやる友達がいなくて、でもめっちゃ興味あるんすよ!」

『あー…よければ一緒にします?』

「え"」

いやいや待て、自分はずっと見る専だし、これからも見る専のつもりだった。けど、今この転機を逃したらきっと、二度とこんな機会ない…よね?

「…してみたい、っす……初めて、なんで、あの、」

『じゃあ短いシナリオから、それと』

「はい?」

『敬語、完全になくしてみよ?』

「…ふぁ???」

進展はやすぎちょっと待って。脳みそ追いつかない。そんないい声で『なくしてみよ?』なんて言われたら「はい」としか言えないけど、え??

『敬語なし、ゆうがから言ったんじゃん』

「よ、よびssss…?!…あ、えと……」

『敬語にします?』

「あいや、…が、がんばる……」

『ん、じゃあ次いつする?』

展開が、はやすぎる…どうしようどうしよう。急な呼び捨てまじ?距離の詰め方どゆこと。え、自分はだいふくさんでいいよね?

「つぎ、は、えっと」

『んふふふ、なんでそんな継ぎ接ぎになるの』

「ほへ…あー…うー……や、やっぱすぐには慣れないっす……」

『ちょっとずつ慣れてって下さいよ、ゆうがさんとは仲良くなりたいんで』

「はひ……」

めっちゃぐいぐいくるやん?!いや嬉しいけど!固定メンバーと仲良くなれるの嬉しいけど!心の準備が、準備が、

『ゆうが?』

「は、はい!」

『これからもよろしくね』

「よ、…よろしく!」


今日だけで一気に進展を迎えることになってしまった。ゆうが、なんてハンドルネームにしなきゃ良かった…もっと名前から遠いのにすれば良かった…。なんかこう…むず痒いというか…。

お察しの通りコミュ障で彼氏いない歴=年齢の自分には刺激がつよつよ過ぎる。あんな低い良い声でゆうがなんて言われたら、

どうしようどうしようどうしよう…。いや、あくまでネッ友だから。ただのゲーム友達。名前呼ばれるのも、タメ語なのも、きっと、すぐ慣れるはず。