「それで、公爵様は何をしに来られたのですか?」

なぜか敗北感のようなものを感じながら、リリアンは尋ねた。

「何って、試合を見に来たに決まってるだろう?」

それはそうだ。ここにいる人は皆、それが目的なのだから。当然のことなのに釈然としないのは何故だろう。クロードは自信に満ちた表情で足を組み、不審がるリリアンに向かって口角を上げた。

「もしかして君に会いに来たと言ってほしかったのか?全く、それならそうと素直に言えばいいのに」
「なっ、そんなことは一言も言ってません!」

クロードはやれやれと仕方なさそうに首を振る。足を組んでいるせいで、その仕草は余計偉そうに見えた。リリアンは目の前の人が苦手だと、改めて自覚する。
何だか振り回されてしまうし、何より、ユリウスを好きなことを責められている気がして。

きっと彼は誰のことも好きになったことがないのだろう。
その人の言動一つに振り回されて一喜一憂したことや、焦がれてやまないような切なさを感じたことが。

たった一人の特別な人ができた時に、やっとクロードも理解できるはずだ。今のリリアンの気持ちを。
だから今は仕方ないのだと、リリアンは先輩風を吹かせながら溜飲を下げた。

「……」
「ソフィア?」

何か考え込むように自分を見つめてくるソフィアに気付き、リリアンはぱちぱちと瞬きした。
目が合ったソフィアは、にやりと笑ってリリアンの耳へと囁く。

「ウィノスティン公爵と恋人だってこと、私にくらい教えてくれてもよかったんじゃない?」
「だからそれは誤解よ!」
「ええ?でも公爵がこんなに誰かと話すのを見るのは初めてよ。公爵と結婚したいって女に裸で迫られた時も眉一つ動かさなかったから、不能なんじゃないかって噂もあったくらいだし」
「は、裸で迫……っ!?」

とんでもない行動にリリアンは絶句した。裸で迫る方も、迫られてるのに全く動揺しない方も、どちらも凄い。

そういえば、とリリアンはクロードの言葉を思い出す。彼は「誰とも結婚する気はない」と言っていた。
第一印象が最悪だったせいでクロードにいいイメージはなかったけど、身体の不調で悩みながらも周囲の期待に応えるためにリリアンへあんな提案をしたのだと考えれば、もしかしたら実は彼も焦ったり追い詰められていたのかもしれない。

ちらりと後ろを振り向けば、暗い顔をしているように見えるクロードが視界に映る。横にいる従者は下を向いてしまっている。きっと彼も心を痛めていることだろう。

「そ、そういう日だってあるのよ、きっと……!」
「ぶはっ!」

ついクロードへの同情心が傾いてしてしまい、リリアンはソフィアの言葉をフォローした、つもりだ。
なのに後ろから吹き出したような音が聞こえて首を傾ける。

再び見たクロードの瞳は心做しか、先程よりも光を失っているように感じられた。



「皆さんお待たせ致しました」

司会の声が会場に響き渡り、リリアンはハッと首を正面へ向けた。いつの間にかもう三十分も経ってしまっていたようだ。


「これよりCブロック、決勝戦を始めたいと思います!」


ついに、決勝戦が始まった。