歩を進めるたびにぴちゃぴちゃと音を立てる水溜まり、跳ねる水飛沫。コンビニを出てすぐに溜め息を漏らす。人通りが多いところを歩くなんて、失敗した。水飛沫を上げないようにひっそりと路地裏からアパートを目指す。
大量に買い込んだコンビニの袋を、濡れないように胸元で大事に抱えて歩く。傘を持つ手がもどかしいけれど、パンやスイーツの香りでイライラを必死に持ち堪えた。
ふと目の端にこじんまりとした古い建物を捉えた。
その建物だけが時代に取り残されているようで、不思議と足がそちらへと向かう。ガラスの扉から覗くように中を見ると、古書店のようだった。
雨宿りのついでに少しだけ寄っていこうと考え、扉を開けると、梅雨のジメジメとした空気や、匂い、色、全てが外とはかけ離れた別世界のように思われた。
「こんな所があったのね」
「気に入りました?」
突如頭の上から声が降りかかり、思わず飛び退くほど驚いた。息を整えながらゆっくり声の主に向き合う。
線の細い、綺麗な顔立ちの男の人がみっちりと敷き詰められた本の箱を抱いている。店主なのだろうか、それにしては歳もあまり変わらないように見える。
「びっくりしたでしょう、こんな若いのが古書店の店主なんて」
「え?ああ、はい。とてもお若く見えます」
柔らかい笑顔で話をされるものだから貴方の存在に驚いたんですよとは言えない。それにしても、何か違和感を感じ、思考が頭の中を駆け巡っていく。
「実は父が体調を崩していて、僕が代わりに出ているんですよ」
「そうなんですね。あの、変な事を聞くのですが、何処かで会ったことありますか?」
雨の音が少しずつ小さくなるのが聞こえる。
薄茶色の細い髪がサラサラと風に遊ばれて、その奥の綺麗な瞳が私をじっと捉えているのがわかる。
「どうでしょう。もしかしたら、気づいていないだけかもしれませんね」
彼は儚い夢のような人だと思った。
大量に買い込んだコンビニの袋を、濡れないように胸元で大事に抱えて歩く。傘を持つ手がもどかしいけれど、パンやスイーツの香りでイライラを必死に持ち堪えた。
ふと目の端にこじんまりとした古い建物を捉えた。
その建物だけが時代に取り残されているようで、不思議と足がそちらへと向かう。ガラスの扉から覗くように中を見ると、古書店のようだった。
雨宿りのついでに少しだけ寄っていこうと考え、扉を開けると、梅雨のジメジメとした空気や、匂い、色、全てが外とはかけ離れた別世界のように思われた。
「こんな所があったのね」
「気に入りました?」
突如頭の上から声が降りかかり、思わず飛び退くほど驚いた。息を整えながらゆっくり声の主に向き合う。
線の細い、綺麗な顔立ちの男の人がみっちりと敷き詰められた本の箱を抱いている。店主なのだろうか、それにしては歳もあまり変わらないように見える。
「びっくりしたでしょう、こんな若いのが古書店の店主なんて」
「え?ああ、はい。とてもお若く見えます」
柔らかい笑顔で話をされるものだから貴方の存在に驚いたんですよとは言えない。それにしても、何か違和感を感じ、思考が頭の中を駆け巡っていく。
「実は父が体調を崩していて、僕が代わりに出ているんですよ」
「そうなんですね。あの、変な事を聞くのですが、何処かで会ったことありますか?」
雨の音が少しずつ小さくなるのが聞こえる。
薄茶色の細い髪がサラサラと風に遊ばれて、その奥の綺麗な瞳が私をじっと捉えているのがわかる。
「どうでしょう。もしかしたら、気づいていないだけかもしれませんね」
彼は儚い夢のような人だと思った。
