「いや、今ここで話す」

 彼女は少し俯いてから、俺の目を真っ直ぐに見据えた。

 彼女の目をはっきりと見たのは今日が初めてだった。黒目で奥二重だけど、意志の強い目をしていた。

 恋人だったのにこんな彼女の顔を見てなかったのか。見ていたはずなのに……

「うん」

「私、松永くんと付き合ったのはね。人気者だからじゃないの。好きっていつも言ってくれて最初は嬉しかった。でも、それって本当に私のこと好きなのかって疑問だったの」

 彼女は鞄を握りしめて、切なそうに言う。

「…なんでそんなこと言うの? 俺は好きで付き合いたくて告白した。他に彼女もいない。
お前が好きだから。それだけでいいんじゃないの?」

 俺は彼女の言葉に早くパスを回した。

 彼女のことが好き。

 好きだから付き合った。

 好きがいけないことなのか。

「好きって言えば、私が安心すると思った?逆に好きっていう言葉が怖くなったの。松永くんの好きっていう態度も私は好きじゃなかった」

 彼女は淡々と俺に思いもよらないことを言ってきた。戸惑い・焦り・怒り・悲しみ・喜び・楽しみとかの感情はなかった。