私との距離は呼吸を忘れるほど一瞬で飛び越えていた。
身体は斜めに向いていて、優しく、両膝を屈めて、私の顔を覗いてくる。
「……っ…なんで? なんでですか」
廊下で下を俯いた私は聞き返す。
私をなんだったと思ってるんだ。
断らない、私が。
確かに断らなかった。
私のことそこまで知らないのに。
分かってしまっているのか…
廊下で立ち尽くしていたら、きよしが突然やってきた。
「きよし! ちょっと待ってよ」
私は急にきよしに呼ばれて驚き、松永先輩と手を繋いでいた手は離れて、きよしが強引に私を連れ去った。
「松永先輩! 劇見に来てくださいね」
私は大きい声で何故かそう叫んでいた。
松永先輩は私にとって、後輩の立場ってだけで何者でもない。
それでも、劇は見てほしかった。
「きよし! 黙ってないでなんか言ってよ!」
きよしは黙ったまま駆け足で私を連れていく。
聞こえているはずだよね、なんで無視するの?
「きよし」
それでもきよしは走るのをやめなかったので、きよしの腕を引っ張った。
「きよし! 説明して。さっき松永先輩といて、話してる途中だったんだよ」


