君のスガタ

 私は目をパチパチさせて、返事をする。

 松永先輩……

 忙しいんじゃないの? 松永先輩。

「じゃあ、行くぞ」

 松永先輩は急に私の手を握りしめて、走り出した。

 ど、どこに行くんですか?

「あの…松永先輩!」

 私は走る松永先輩に声をかける。

 劇までには時間があるけど、その前に準備などがある。

「なに?」

 走ったまま松永先輩は息切れをすることなく、聞き返した。

「私、午後から劇あるんですよ。そのまえに、着替えとか宣伝とかあるんですよ」

 私は繋いだ手を見つめてから、前にいる松永先輩の方に目を向ける。

「知ってるよ。俺は俺で部活の所に行かないといけないから。一時間俺にくれない?」

 走ったまま松永先輩は疲れることもなく、少し後ろを振り向いてまた前を向いていた。

「…私が断ったら、松永先輩は回んない予定だったんですか?」

 私は足を止めて、手を繋いでいる方を見て言う。

「断らないよ。柚は」

 自分に自信があるのか松永先輩も足をとめて、ぎゅっと手を先ほどよりも強く握ってきた。