「そう。部活なくても毎日午後十六時からやってるよ。じゃあ、俺は練習戻るから」

 松永慶先輩は私にまた手を振っていたので、私は無表情に目を細めて見ていた。

「…何も反応ないんだね」

 松永慶先輩は目を見開いて、私に言ってきた。

「…いや…どう…反応すればいいか分からなくて…」

 私は首をひねって、松永慶先輩に言う。

「…いや…え? あー、そっか…。こんな先輩初めてとか」

 松永慶先輩は髪をかいて、ケラケラと口角をあげて、私に声を発する。

 周りには誰もいなくて、私達二人きりだった。

「…こんなチャラい人初めてですよ」

 私はため息をついて、松永慶先輩は目を丸くする。

「……うん、そっか。じゃあ」

 松永慶先輩は少し上を見上げて、私に低い声で発する。

「…では……」

 私は後ろを振り返り、歩き始めた。

 その姿を見ていた松永慶は彼女を見て、独り言を呟いていた。

 相変わらず、頑張ってるんだね。

 松永慶は微笑みながら、いない彼女に対して、言う。

 彼女はまだ知らない。

 松永慶先輩はひっそりと彼女を見守っていたことを。