そう言ってから、自分の鞄を手に持って教室から立ち去った。

 その光景を見て、私はにこやかに微笑んだ。

 ありがとうね、きよし。

 帰っていたきよしの後ろ姿を見て、ひとり呟いた。

 私はクスッと笑ったあと、立ち上がって自分の鞄を持って歩き始めた。

「…きよし。しゃべれんじゃん。ふふふ」

 私はきよしの表情を思い出して、クスクスと口元を手に当てて、笑みを浮かべた。

「……なに、笑ってんの?」

 振り返ると、そこには松永慶先輩がフェンス越しにいた。

「……あっ、柚!」

 ひらひらと両手で振って、元気よく私に声をかけてきた。

 ボサボサな髪はチャラそうな松永慶先輩のトレードマークだろうけど。

 私は苦手なタイプだ。

「……なんで名前知ってるんですか?」

 私は睨んで、松永慶先輩の顔を見る。

「…なんでって…部活見てるから名前くらい覚えるよ」

 松永慶先輩はラケットと球を片手ずつ持って、両手を広げてニヤッと笑い、私に見せてきた。

「…そうですか……」

 こいつ、いつバレー部見に来てるんだ。

 ストーカーみたいだな。

 私は右手に鞄を持って、チャラい松永慶先輩と話すには適度な距離が必要だ。