君のスガタ

 松永先輩はこの時間はあのテニスコートにいるはずだ。

 はぁはぁはぁ…

 私は立ち止まり、テニスコートの中には松永先輩がいた。

 相変わらず、松永先輩は練習をしていた。

 汗をかいて、一人でテニスコートに向きあっていた。

 必死に球を打ってはラケットの角度調整をして、うーんと考え込んで、こうかなと一人でブツブツと呟いていた。

 それを私は見ていたら、松永先輩は私に気づいた。

「え? 柚何してんの」 

 松永先輩は嬉しそうに駆け寄り、フェンス越しに手を取って、どうしたの?と聞いてくる。

「……いや…私は松永先輩のこと先輩だと思ってました。だけど、違いました。私、松永先輩のこと好きなんです!」

 肌寒くなってきて、自分の手は少し冷たいのに心は温かった。

 松永先輩はフェンスから手を下ろして、呆然と立ち尽くしていた。

 驚いてる。それはそうだよね。

 松永先輩は数分後、口を開いた。

「……柚。俺は……」

 あとの言葉を私は待っていた。

 松永先輩は言葉を出そうと、右拳に力をいれて口を開こうとしていたが、言葉が詰まったままだった。