君のスガタ

 今日に限った訳ではないというのはどういうこと?

 それを言おうと口を開こうとしたら、松永先輩は先に声を発した。

「…もう遅いし、帰るよ」

 松永先輩は手を離さずに繋いだまま、足を踏み出した。

 私はバレーボールを拾わなくてはいけないし、まだ片付けもあるから。松永先輩にあの…と声を出すと、私の方を振り向いた。

「…どうした?」

 松永先輩は黒目がはっきり見えるくらいに目を見開き、聞いてきた。

「あの…片付けしなくちゃいけないんですけど」

 私は床に落ちていたバレーボールを指をさした。

 理解したのか、ああっと呟いてから手を離して、近くにあったボールを拾った。

「…拾って片付けをして帰ろう」

 いつもの無表情に戻り、淡々とボールを拾っていた。その合間を縫って、私は片づけた。

「松永先輩。終わりました」

 私と距離が離れていたので大きい声で知らせた。

 静まり返った体育館で二人の声がやまびこの様に帰ってきた。

「柚~」 

 松永先輩は口角を上げて嬉しそうに私の名前を呼んでいた。

「なんですか?」

 私は再度大きな声で言う。

「なんですかじゃないわ。帰るぞ」