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「慶。昔のこと思い出したでしょ」

斗真は俺を窺うように聞いてきた。

「……俺は好きってもう言えないの」

 俺は外の景色を眺めたまま、斗真にポツリと言う。

「…分かってるんでしょ。柚ちゃんにどういう好意があるのか本当は分かってるのに分からないようにしたいでしょ」

 斗真はズボンの中に入っていた携帯を取り出して、微笑んでいた。

「…自分自身が分かってる。言葉で伝えてもまた、同じことになるのかもしれないし」

 俺は手すりに寄っかかり、下に俯く。

「慶。柚ちゃんは柚ちゃん。好きっていう思いは誰かと関わる度に増えていくか減っていくかじゃない。それでも、好きの気持ちが傾くならそれはそれでいいんだよ」

 斗真はうん?と首を傾げながら、俺の方を見ていた。

 好きの言葉は人それぞれ違う。

 好き度合いは熱くなったり、冷めたりする。

 柚は一生懸命に部活をしている。

 劇でも楽しそうにしたり、悲しそうにしたり、頑張っている姿は美しい。

 柚は生き生きしている。

 自分なりにやりたいことをやって、キラキラしている。

「柚は柚だと思う。それでも、俺は好きの裏を考えてしまうから、今は柚と話すだけで十分だよ」

 俺は斗真に目を細めて言う。