「よぉ!」

 澄矢は快翔と近所のコンビニに
 待ち合わせた。
 これはきっと現実だよなと思いつつ、
 ショルダーバックを自転車のかごから
 ななめに肩にかけた。

「今朝はずいぶん早かったな。
 ライン。
 寝れなかったのか?」

「…ま、そうね。
 好きな漫画にハマってさ。
 ずっと見てたら眠れなくなってさ。」

 スマホの漫画電子書籍を澄矢に見せた。
 今はスマホ一台あれば、漫画も
 いろんなものがたくさん読めてしまう。
 夢中になるととまらない。
 際限がないのだ。
 
「あー、そうなんね。
 そういう理由ならいいんだけどな。」

「は?他にどんな理由があんのよ?」

「いや、別にぃ。」

 澄矢は、コンビニの中に入っていく。
 快翔は、その後ろを小走りで追いかけて
 いく。

 澄矢はこの間見た暗い快翔の顔が
 忘れられなかった。
 屋上から身を投げそうになっていた
 あの快翔は本物だったのだろうか。
 心配で仕方ない。

「コンビニスイーツって美味しいよな。
 たまに売り切れてる時あるんだわ。」

「え、快翔も甘いの好きなわけ?
 俺も好きなんだよな。」

「おう、チョコなんて毎回買うわ。
 うまいもん。」

「だよな。
 ギリギリあったっていうのもあるわ。」

「人気だから早く来て買わないとな。」

「ああ……てか、今日、どうするん?
 別に予定決めてなかったよな。
 とりあえず、コンビニで
 待ち合わせしようって。」

「うん。
 んじゃ、このスイーツ買ったら行こうぜ。」

「え、ああ、うん。
 わかった。」

 澄矢は特に行き先も言われなかったが、
 快翔の後ろに着いていくことにした。
 コンビニのレジでスイーツをビニール袋に
 入れてもらい、自転車のかごに入れた。
 店員さんにウエットティッシュを
 ビニール袋に入れてもらう。
 何も言わずに入れてくれて、嬉しかった。

「よし、んじゃ、行こうか。」

 サドルに座り、ペダルに足をかけて、
 快翔は、自転車を漕ぎ始めた。
 澄矢は、そのままついていくしか
 なかった。
 どこに行くかなんて聞いてないから。

 しばらく道なりに進んでいくと
 見たことがある景色にたどり着く。

 夢だったのか未来だったのか
 わからないが、あの時と同じ場所。
 そう、雫羽に会った近くの河川敷だった。

「え、ここ?」

 現実か夢か偽物か
 ちょっと戸惑ってしまう。
 
「おう。ここに遊具あるだろ。
 小学生の頃から何回も通った
 ところだからさ。
 川の音っていいだろ。
 鳥も鳴いているし。」

「あ、いや、まぁ、そうだな。」
「ごめんな、つまんない?」

「ううん。別に。
 いいよ、たまにこういうのも。
 快翔、外に出たかったんだろ?」

「うん。そう。
 家にいたくなくてさ。」

 快翔は、足元に転がる石を拾って、
 水切りした。
 10回以上ぴょんぴょん飛んで
 反対側の浅瀬に辿り着いていた。

「うそ、まじかよ。
 俺、そこまで行ったことないから。」

「そ?
 すごいだろ??」

「あ、ああ。」

 得意そうに快翔はもう一度飛ばしたが、
 次は1回だけぼちゃんとなって落ちた。

「あー、今回のは重かったかな。」

「まぁ、毎回うまいようにはいかないって
 ことだよな。」

「そんなもんだよ。
 本当。」

 膝を抱えて座って、
 ぼんやりとする。
 ふーっとため息をつく快翔。
 澄矢は石を探し始める。

「なぁ、澄矢。
 進路、どうすんの?」

「え。もう進路の話?
 俺らまだ1年だろ。」

「でも、大体の目星とかつけてんだろ?」

「あー、まぁ、そうだけどさ。
 勉強嫌いだから大学には行きたくないな。
 専門とかかな。」

「ふーん。そうなんだ。」

「良いよなぁ、何かお気楽で。」

「はぁ?気楽に考えて
 何が行けないんだよ。」

「べ、別に…。」

 含みを持たせた言い方をする。
 澄矢は快翔を理解することは難しかった。
 生活環境が違うからだ。

 うぐいすととんびが行き交って
 飛んでいた。

 空はところどころ綿雲が浮かんでいた。