ミツケタ ミツケタ ミツケタ
 シロノ アクマ ミツケタ



 壁一面に赤い文字が広がっていくのを、ユウイは少女の肩越しに見た。


 そしてその赤い文字が再びうねうねと動き出す。今度は定規で引かれた線のようにまっすぐになり、矢が放たれるように壁から飛び出し少女の背中に刺さった。



 少女が地面に倒れこむ。その背中が紅く染まっていくのを見て、ユウイは小さく悲鳴を上げた。


 どうすればいいのか考えてる間もなく、今度は赤い文字が紐のように変化し、少女の首に絡みついた。


 背中に赤い矢を刺したまま、少女は壁に引きずられていく。そして手足に赤い紐が巻き付き、操り人形のように少女の体が宙に浮いた。



 それまで動きを止めていた骸骨たちが、ゆらり、ゆらりと少女を囲んだ。ユウイは地面から石を拾い、骸骨に向かって投げつけた。が、石は骸骨に届かなかった。


 ユウイが慌てて投げるものを探していると、自分の体に影が落ちるのを感じた。とっさに顔を上げると、背にしていた壁から人影が飛び降りてくるのを見た。



「馬鹿! そのまま動くな!」



 新たに骸骨の仲間が現れたと思ったユウイは、小石を掴み、その人影に投げつけた。痛てぇよ馬鹿! と、人影が振り向く。


 ユウイの目の前に立っていたのは骸骨ではなく、黒い髪の少年だった。



「三の主の命令だ! 今すぐ剣を下ろせグリオス!」



 少女に剣を振り上げた骸骨たちの手が、ぴたりと止まった。しかし骸骨たちは剣を振り上げたまま、首をかしげて少年を見ている。



「三の主の命令だ。剣を下ろせグリオス。元の配置に戻れ」



 少年がもう一度そう言うと、骸骨たちはゆっくり剣を下ろし、ゆらゆらと上体を揺らしながらその場を去った。



「アリア、お前もだ。そいつを下ろせ。三の主の命令だ」



 少年は、今度は壁に向かって言った。すると壁につるされていた少女の赤い紐がほどかれ、落ちてくる少女を少年が受け止めた。



「カナ、おい、大丈夫か? カナ?」



 自分の腕の中でぐったりしている少女の頬を、少年が軽く叩いた。


 その背後で壁の文字がうねうねと変形し、赤色から白色へと変化していく。


 腰を抜かしていたユウイも、なんとか立ち上がり二人の元へ駆け寄った。少年の腕の中でゆっくり目を開いた少女は、静かにユウイを指さした。



「わかってる。こいつを逃がしてくるから、お前もここでじっとしてろよ?」



 少女は小さくうなずいたあと、そのまま気を失ってしまったようだった。


 少年は少女を地面に横たえると、ユウイの手を掴み立ち上がった。



「想定外だ、こんなこと。お前、ここに来たこと誰にも言うなよ。俺たちに会ったことも」



 そう言って歩き出す少年に、ユウイは引っ張られるように歩き出した。


 何が起きているのかさっぱりわからない。地面に横たわる少女のことも気になって、ユウイは少年の手を振りほどこうとした。



「おいチビ、はやくここから出ないと、お前もマーガレットもこの街にいられなくなるぞ」



「なにいってるのかぜんぜんわからないわ! それにあの子をこのままおいていくの!?」



「あいつのことが心配なら、はやくここから出てくれ。お前大通りまで一人で戻れないだろ? 路地裏は一定の時間が過ぎると変化するんだよ。だから迷い込むと二度と戻れない」



 どういうことか、わからない。路地裏が変化する? ユウイが首をかしげると、少年はため息をついた。



「細かいことは説明していられないんだ。とにかくここから出ないと……って、あーあ」



 少年がユウイの足元を見て、再びため息をついた。なにかしら? ユウイは自分の足元を見る。


 すると、ユウイの右足首に白い蛇のようなものが巻き付いていた。
 


「呪われたなお前。そのままじゃ家に帰れないぞ」



「えっ、これ、なに? のろいって、なに?」



「お前さ、なんなの? 何も知らないのかよ。路地裏の管理をしているグリオス……さっきの黒い骸骨に呪われたんだよ。そのままじゃ、路地裏を出たとたんにその右足首ふっとぶぞ」



「あしくびが、ふっとぶ……って、ええ!? ええ!?」



 ユウイは自分の右足首がなくなる想像をし、全身の血の気が引いていくのを感じた。



「あー、もう、めんどくせーな。しょうがないからこのまま俺についてこいよ。本当に面倒くさい」



 そう言いながら、少年は少女を抱きかかえ、歩き始めた。また、面倒くさいと言われてしまった。悲しくなって立ちすくむユウイに、少年が声をかける。



「足首なくなってもいいのか?」



 ユウイはまた自分の右足首がなくなるのを想像して怖くなり、早足で歩く少年のあとを慌てて追った。