名前の由来

「ねえ、菊池くんはどうして紫音って名前なの？」
唐突に聞かれ、驚いた。
「急にどうしたの？」と聞くと、いや何となく気になっただけと言われた。
〈紫音〉という名前で男だと珍しいと思われることが多く、名前の由来を聞かれるのもよくあることだ。いつもは適当に由来を答えていたがなぜか彼女にだけは話したくなった。
「少し長くなるけどいい？」あらかじめ、許可をとっておこう。もちろんと彼女は優しく微笑んだ。

〈紫音〉の大きな由来は、花の紫苑からきているものである。生前、父がこの世でこよなく愛した花らしい。父は、単身赴任が多く家に帰らないのがほとんどだったそうだ。だから、出張前には必ず紫苑を母に送っていたらしい。
母が僕を身籠った頃、父が母をサポートするため仕事を一度休み、母の元へ帰ろうとした。その帰る道中で、父は不慮の事故に遭い帰らぬ人となってしまった。母にとって、父の死は深く深く心の傷として刻まれてしまった。父は、仕事でよく家を開けていたもののそこには確かに二人の愛があった。父の死から、母の精神状態は崩れていった。ご飯もまともに食べれなくなり、寝れない日々が続いた。母子ともに危険な状況になり、入院を余儀なくされた。母は、ある日病室にある窓から景色を覗いた。
紫苑が見えた。紫苑が目に飛び込んだ瞬間、母は涙を流した。その紫苑は、辛そうな母を励ます父のように見えた。そしてもう一つ、紫苑の花言葉が関係している。
紫苑の花言葉は、
「あなたを忘れない」「遠くにある人を想う」
「追憶」がある。母は、まさにピッタリだと思って紫苑と名付けようとしたんだ。でも、そのままの漢字をもらうよりも紫苑の音をもらうってことで〈紫音〉になったんだ。