「例え付き合ってるフリでも、皆に公言するのはやめる」
「え、どういう風の吹き回しで?」
「沢井さんに迷惑かけたくないしね」
ふっと笑った時瀬くんが、少しだけ大人っぽく見える。なんだ、自分のことばかりかと思いきや、ちゃんと私のことを考えてくれる人なんだ。
「でも付き合うフリは、もう確定なんだね?」
「もちろん。でも皆の目を気にしてたら、いつまで経っても一緒に居られないじゃん。イコール、俺が恋を教えてもらう機会はないってことでしょ?」
「まぁ、そうなるね」
「だからさ。雨の日だけ一緒に帰らない?」
「雨の日……だけ?」
〝だけ〟を強調してしまったせいか、時瀬くんは「そんなに寂しがらなくても」と。自分の手が濡れるのも厭わず、傘から手を伸ばして、私の頭を撫でた。
「今は梅雨だから、嫌というほど雨が降るよ。もしかしたら毎日一緒に帰るかもね。それこそ沢井さんは嫌かもしれないけど」
「……」
「沢井さん?」
頭を撫でるのをやめた時瀬くんは、私から手を離す。この動作だけでも、なぜか漂うアンニュイ感。
だけど……少しだけ寂しそうにも見えた。
「あの、時瀬くん。私はさ、時瀬くんと一緒に帰ってる今を、別に嫌だとは思ってないよ?」
「え」



