アンニュイな偽カレに、愛され注意報⚠︎ (短)


「例え付き合ってるフリでも、皆に公言するのはやめる」

「え、どういう風の吹き回しで?」

「沢井さんに迷惑かけたくないしね」



ふっと笑った時瀬くんが、少しだけ大人っぽく見える。なんだ、自分のことばかりかと思いきや、ちゃんと私のことを考えてくれる人なんだ。



「でも付き合うフリは、もう確定なんだね?」

「もちろん。でも皆の目を気にしてたら、いつまで経っても一緒に居られないじゃん。イコール、俺が恋を教えてもらう機会はないってことでしょ?」

「まぁ、そうなるね」

「だからさ。雨の日だけ一緒に帰らない?」

「雨の日……だけ?」



〝だけ〟を強調してしまったせいか、時瀬くんは「そんなに寂しがらなくても」と。自分の手が濡れるのも厭わず、傘から手を伸ばして、私の頭を撫でた。



「今は梅雨だから、嫌というほど雨が降るよ。もしかしたら毎日一緒に帰るかもね。それこそ沢井さんは嫌かもしれないけど」

「……」

「沢井さん?」



頭を撫でるのをやめた時瀬くんは、私から手を離す。この動作だけでも、なぜか漂うアンニュイ感。
だけど……少しだけ寂しそうにも見えた。



「あの、時瀬くん。私はさ、時瀬くんと一緒に帰ってる今を、別に嫌だとは思ってないよ?」

「え」