梅雨に儚く散る私

――翌年


私は高校生になった。無事志望校に進学することができた。先生がずっといてくれたら、今頃一緒に喜んでいたんだろうな、そんなことを考えてしまう。
もう少しで私の嫌いで大好きな梅雨が来る。先生がいなくなってから、またどこかで偶然合わないかと期待していた。正直今でも少し期待している。


「今日から教育実習の先生が来られます。うちのクラスに来てもらう先生は゛雨宮先生゛です。皆さん雨宮先生に色々教えてあげてくださいね」

私はハッとして雨宮先生の顔を見る。


――あの先生だ。


間違いなく私の知っている雨宮先生だった。


「初めまして、雨宮です。好きなことは外を眺めることです、よろしくお願いします」

先生は私を見る。そして懐かしいあの笑顔で微笑む。私の終わった恋がまた、始まろうとしている。

休憩時間、先生は中学の時とおなじように私の席に来た。

「久しぶりだね、緑ちゃん」

「久しぶり、です」

先生は変わっていなかった。あの笑顔、たまに見せる儚い顔。そしてあの話し方。私が最初にあった時と全く同じだった。

「せっかく再会したんだから僕の秘密を1つ教えてあげるね」

「はい」

「大分前僕になんで儚い顔をするのって聞いてくれたでしょう?あれの答えを教えてあげる。僕の両親は雨の日に事故で亡くなったんだ。でも、僕は雨が好きだった。だからかな、たまに事故を思い出してしまうんだ。好きなのに嫌い、そんな感じ。矛盾してるよね。」

私は黙ったまま先生を見つめる。何も返事が浮かばない。なんて言えばいいのか分からなかった。そんな私を見越したのか先生はこういった。

「まぁ、重い話だからなんて言ったらいいか分からないよね。あ、それと緑ちゃん、ごめんね。僕1つ嘘をついたんだ」

「嘘...?」

「嘘っていうか、あの時ね、緑ちゃんが僕のことを好きだって、本当は知らなかったんだ。本当は知らないよって言えばよかったのに、何も言葉が出なくて...」

知らなかった、?あの時先生は否定も肯定もしなかった。だから知ってるとばかり...。ひとりで先走ってしまったことにどうしようもなく恥ずかしくなってしまった。

「あの時何も言わなくってごめんね」

「別に...もう昔のことですから」

本当は気になって仕方なかった。でも、終わった恋のことを掘り返したくない。また傷つきたくない。

「僕はね、好きだったよ」

先生がポツリと呟いた。

「え?」

「実はね、僕の片思いの相手は緑ちゃんだったんだ」

なんで今更...。
あの時言って欲しかったです、なんて言える訳もなく私は黙り込んでしまう。

「今はもう僕のことは好きじゃない?」

「好きじゃない...」

「そっか...」

「好きじゃないなんて嘘つけないや...」

私は涙をこらえてもう一度先生に言う。

「好きです先生。あの時からずっと、忘れたことはありませんでした」

先生は驚いた顔をした。と思えばいつもの柔らかい笑顔で私に言った。

「両片思いだったんだね、僕たち。でも付き合えないね?教育実習生だと言っても生徒と教師だもんね」

先生は幸せそうな顔をしていた。そしてどこか子供を連想させるような笑顔で私の方を向いた。

「先生は卒業するまで待ってくれますか?」

「どうかな〜」

私は先生の目をじっと見つめる。そして先生に想いを告げる。

「じゃあ待っててくるなんて言いません。傍にいて下さい」

「同じ意味だと思うんだけどなぁ。まぁいいよ、あと3年か、長いなぁ」

春と夏の狭間にある梅雨。私たちの出会いの季節。それと、別れの季節。

先生が、いつ私を好きになったのかはまた別のお話―――