殴り書きのように書かれていたそれはどこか悲しげだった。
できれば見なかったことにしたい。
この持ち主も見られたら困るだろう。
もとあった場所に戻すべきか。
そんなことを考えていた時、ガラッと扉が開いた。
全身から血の気が引いたような感覚。
なぜか、部活帰りには制服に着替えて、帰らなくてはならないと言うルールがある。
こんな寒いのにカッターシャツ一枚で現れたのは、同じクラスの朝比奈琥珀くんだった。
いつも明るくクラスのムードメーカーだったはず。
今日は雰囲気が全然違った。
どこかつまらなそうな顔をしている。
動けない。
ただ、冷や汗が身体中から吹き出て止まらない。
お互い見つめあって、数秒。
やっと口を開いたのは、朝比奈くんだった。
「見た?」
その言葉に頭をフル回転させて考える。
そしていつものように、あの答えに辿り着くのだ。
「うん」
嘘がつけないめんどくさい性格なんてもうやめたいのに。
彼がこちらに寄ってくる。
それにつれて心臓の音が大きく、うるさくなる。
雨で少し暗いから、彼の横に分けた髪の毛を耳にかける仕草が色っぽく見える。
後ろに後退りしても意味がない。
袋小路。
ついに私は追い詰められた。
私の後ろにある机に彼が手を置く。
顔が近くなって、体も当たりそう。
今多分、髪の毛が触れているかもしれない。
もし先生が来たら、キスしていると間違えられるくらいの距離感。
なんで、ドキドキしているのだろうか。
彼に対する恐怖か、好意か。



