短い授業が終わった午後十二時過ぎ。

放課後を知らせるチャイムが鳴り、今日は給食なしで帰ることに。

教室の中がまだガヤガヤと騒がしい中、帰る準備をしていると、わたしの席の前に影が一つできた。


「え?」


見上げると、そこにはまだ見慣れない黒髪の湊くんの姿。


「あ……えっと……」


突然のことに驚いてしどろもどろになるわたしに、湊くんはクスッと笑う。


「急にこんなんになってて、驚いた?」


その笑顔に、言葉が飲み込まれていった。


「……千春ちゃん、一緒に帰ろ」


その言葉で、教室の中の空気が止まったかのように一気に静まり返った。

みんながいる中で話しかけられるなんて思ってなかった。

だって、湊くんがそう言ってたから。

これじゃあ、勘違いしちゃうじゃん。

もしかしたら、もしかしたら。


……わたしのために、髪を染めてくれたんじゃないかって。


あんなに金髪が気に入ってるって言ってたのに。

誰に染め直せって言われても嫌だって言い張ってたのに。

わたしが、噂されるのが怖いって言ったから?

でも話せなくなるのは寂しいだなんて、わがままを言ったから?

そんなわけないって思うのに。でも、それだったら全部つながるだなんて思ってしまうわたしもいて。

それを、嬉しいと感じてしまう。

……わたしは、なんてずるいんだろう。