「だから、こうやって話せるのは夏休みまで、かな」


わたしの頭を撫でてくれる湊くんの声が、痛々しい。


「俺のわがままで夏休みも一緒にいてもらったし友だちになってもらっておいて失礼だってのはわかってる。だけど」


苦しいよ。そんな表情しないでよ。

そんな声、出さないでよ。


「俺、そんな方法でしか千春ちゃんの守り方、思いつかねぇから」


さっきまで幸せで楽しくて仕方なかったのに、一気にどん底に落とされたかのような気持ちになる。

気が付けばもうわたしの家に着いていて、まともに何も返せないままのわたしに、湊くんは片手を上げて去ろうとする。


「……み、湊くんっ」

「……ん?」


呼び止めて、どうするんだとか。

何を言うんだとか。

そんなの、何もわからなくて。

ただ衝動的に呼んだ名前に振り返ってくれた湊くんに、わたしは深呼吸をする。


「わたしはっ……わたし、この夏休みの間、湊くんに言われたから一緒にいたんじゃないよ」

「え?」

「わたしが、湊くんと一緒にいたかったから一緒にいたの」

「千春ちゃん……」

「わがままだなんて思ったことない。たしかにわたしは弱虫で、今湊くんに言われて学校で噂されるの怖いと思っちゃった。だけど、だからって湊くんと一緒にいるのやめたくないよ。どうしたらいいかはまだわかんないけど……。でも、わたし、このままバイバイなんて嫌だから」


放課後とか、学校の図書室とか、昼休みにちょっとだけとか。

そんな少しの時間でもいい。

こんなに仲良くなれたんだ。

わたしの初めての友だちなの。

それを、ほとんど嘘の噂に振り回されて一緒にいれないだなんて、そんなの絶対ダメ。

だけど、怖い気持ちもあって。

自分の感情が理解不能だ。


「だから、そんな寂しいこと言わないでよ……」


そう言った次の瞬間。

ふわり、と。何か温かいものに包まれた。


「……ごめん。泣かせるつもりはなかったんだ」

「え……?」

「ごめん。そうだよな。俺、酷いこと言ったよな。俺が悪かった。だから泣かないで」

「泣いてなんか……あれ……」


気が付くと、自分の頬が濡れていた。


「やだ……なんで……」


それは拭いても拭いても止まってくれなくて、わたしを包んでいる温もりが湊くんだと気がついてからは、余計に止まらなくて。


「ごめん。ごめんな」


ただひたすらに謝ってくる湊くんに首を横に振りながら、湊くんが抱きしめてくれるその優しさに甘えてすがりついて、しばらく涙を流すことしかできなかった。