「今おやつ作ってるところで、ちょっと予熱が甘かったみたいでまた焼けてないのよ。できたら持って行くから、先に湊の部屋で待っててくれる?」

「あ、はい……」

「じゃあ行こ、白咲さん」


リビングを出て一緒に階段を登り、川上くんの部屋へ。
そこはグレーを基調としたおしゃれな部屋で、すごく大人っぽい空間。

川上くんのイメージにぴったりだ。


「適当に荷物置いてくれていいから」

「ありがとう……」


そう言われてもどこに置けばいいのか。

とりあえずテーブルの横に置かせてもらって、ラグマットの上に腰掛けた。


「はは、緊張しすぎ」

「だ、だって……男の子の部屋なんて入ったことないから、緊張しちゃって……」

「ただの部屋だよ。自分の部屋だと思って寛いでくれていいから」

「そんな、さすがにそれは無理……!」

「ははっ、冗談だよ。でもそれくらいリラックスしてほしいってこと!」


川上くんはわたしの緊張をほぐすためにたくさん話しかけてくれた。

途中で美雨ちゃんが飲み物を持って来てくれて、成り行きで三人で話し始める。


「そういえば千春ちゃん、なんでお兄ちゃんのこと名字で呼んでるの?」

「え?」

「お兄ちゃんも、なんで千春ちゃんのこと白咲さんって呼んでるの?友だちなんでしょ?」

「え……あぁ、言われてみれば確かに。いや、最初から名字で呼んでたから、変えるタイミング無かったもんな」

「うん。そういえばそうだね」


美雨ちゃんに言われて初めて気がついて、友だちというのは下の名前で呼び合うのか、なんて当たり前のことを再認識する。


……え、でも、ちょっと待って……?


つまり、わたしが川上くんのこと、"湊"って呼ぶってこと?え?呼び捨て?いきなり?ハードル高すぎない?