わたしが早く着きすぎただけで、まだ待ち合わせ時間までには十分くらいある。

気にしなくていいのに。

それから二分ほどで、川上くんが走ってくる姿が見えた。

それが、夏休み前に初めて勉強会のための待ち合わせをしていた日と同じに見えて、笑いそうになる。

あの日も、川上くんは寝坊しちゃってわたしのために走ってきてくれたんだっけ。

今日もわたしが先に来ていると知って、慌てて来てくれたのだろう。

申し訳ない気持ちになりつつ、わたしを探してきょろきょろとしている川上くんに


「川上くん!」


と声をかけた。

くるりと振り返ってわたしの方を見た川上くんは、わたしを見て一瞬固まった後に、目を見開く。


「わたしが早く着きすぎちゃったの。ごめんね急がせて」


そう言うと、ポンっと音が鳴りそうなほど勢い良く顔を真っ赤に染めた。


「な……なん、浴衣とか聞いてない」

「これ、お母さんのお古なんだ。メイクとかも慣れてないから不安なんだけど……変じゃない、かな」

「まさか!変なわけ……ごめん、ちょっとびっくりして頭追いつかない。ちょっと呼吸整えさせて」

「うん。わかった」


いつも通りシンプルなシャツでやってきた川上くんは、


「言ってくれれば俺も浴衣で合わせたのに……」


と小さく言っていて、わたしも顔を赤くする。


「ごめん、ありがとう。じゃあ行こっか」

「うん」


赤みが引いた川上くんに頷くと、そっと右手を出される。