キミと踏み出す、最初の一歩。

巾着から鏡を出して見てみる。

そこには何度も見ても見慣れない、メイクをして別人のようになった自分自身の姿。

お母さんが張り切ってしまって、まだ中学生なのにメイクしてくれた。

お母さんのお気に入りのお化粧品を使ってくれたみたいで、その高そうな良い香りが急に大人になったみたいでドキドキする。

鏡を見つめても、正直メイクなんてしたことがないから変なのかどうかもよくわからない。

なんだか瞼はいつもより重いし、まつげがくるんとしていてわたしじゃないみたい。

普段リップクリームしか塗らないわたしがくすみピンクの可愛い口紅を塗ってるのも落ち着かない。

何か食べたら落ちちゃいそうだなと思いつつも、お母さんが


"そのリップは落ちにくいやつだから大丈夫よ。安心して行ってきなさい"


って言ってくれたから、多分大丈夫なんだろう。


「……やっぱ落ち着かない……」


川上くん、わたしのこと見たらびっくりするかな。

いや、もしかしたらわたしって気が付かないかも……?

そんなことを考えていると、ふいにスマホが鳴る。


『もしもし?』

『あ、白咲さん?もうすぐ着くんだけど、今どの辺?』

『あ……わたしはもう着いてて、今鳥居の前にいるよ』

『え!ごめん、すぐ行く!ちょっと待ってて!』


川上くんは何かを勘違いしたのか、そう言うと電話を切ってしまった。