それから夏休みまで二週間ほど。

わたしたちは毎日放課後に机を囲むのが決まりになった。

この勉強会のことは、わたしたち以外誰も知らない。

川上くんもあれ以来みんなの前でわたしに話しかけてくることはない。


『俺の噂のせいで白咲さんに迷惑かけたくないし』


川上くんはそう言って決して教室では話しかけてこないで他人のふりを貫いている。

ノートを運んだ日のことは少し噂にはなったけれど、みんな川上くんに関わりたくないからとそれもやめたようだった。


「今日は英語を教えて欲しいんだ」

「英語は得意?」

「いや、無理。つーか日本人なのに英語を勉強する意味が全くわかんねぇ」

「ふふっ……なんかよく聞くセリフ」

「だってそう思わねぇ?俺は将来海外行く予定も無いし」

「わたしもよくわかんないけど、将来の選択肢を増やすためだってお父さんが言ってました」

「選択肢って言われてもなあ、別に医者になりたいわけじゃないし、人並みに生きていければいいんだけど」

「わたしも。だけど英語も半分は簡単な単語の暗記だし、中一の間は基本的なことしかやらないって言ってたので、文法さえ覚えちゃえば大丈夫です」


なんとなく、少しずつではあるけれど川上くんとは普通に会話ができるようになってきた気がする。

対して勉強中は、ほとんど無言だ。