「あ、あの!」

「……ん?」

「あの……えっと」

「どうした?」


川上くんはわたしの声に立ち止まり、振り返ってくれる。

わたしが言葉を詰まらせているのに、気にしていないように首を傾げながら聞き返してくれた。

そんな些細なことに安心して、わたしは一つ深呼吸する。


「……川上くん」

「うん」

「わたしで良ければ……勉強教えます」


言えた。ちゃんと言えた。

ふぅと息を吐くと、驚いたように川上くんが近寄ってきて。


「え、いいの?俺のこと怖くねぇの?」

「えっ……いや、確かに最初はいろんな噂がある人だからって怖かったんですけど……でも、昼休みも今も、喋ってる間は別に怖くないし、それよりも……久しぶりに誰かとまともな会話ができて、嬉しかったから……」

「白咲さん」

「あがり症のことも、わたし昔からずっとコンプレックスで。だから、理解してくれたのが嬉しかったんです。ありがとう……ございます。ノート運んでくれたのも助かりました。だから、わたしで良ければ……お礼に、手伝わせてください」


どうして、そんなことを言ったのかはわからない。

心臓はバクバクして、今にも破裂しそうなくらいにうるさい。

顔も真っ赤だと思う。

手足も震えてるし、酷い顔してると思う。

だけど、ゆっくりでも自分の気持ちを言えたことが嬉しかった。

川上くんはわたしの話を聞いてしばらく黙っていたけれど、すぐに目尻を下げて笑った。