「しんどいよな。緊張ってコントロールできるものでもないし、うまく喋れなくなるから大体敬語になるし勝手に顔は赤くなるし心臓うるさくなるし。焦れば焦るほど汗止まんなくなるし。まぁ、全部妹の受け売りだけどよ」

「わたしと、同じだ……」

「だろ?だから無理して俺と上手く喋ろうとか思わなくてもいいし、俺の前では変に緊張しないようにとか考えなくて良いから」


そんなこと、初めて言われた。

初めて、この気持ちを理解してくれる人がいた。

今までそんな風に言ってくれる人はいなかったから、なんだか不思議な感覚がした。


"俺の前では変に緊張しないようにとか考えなくていい"


その言葉が、今のわたしにとってどれほど救いの言葉か。

川上くんは妹さんに重ねて適当に言っただけかもしれないけれど、嬉しかった。


「そもそもあんたみたいな真面目なタイプなら、余計にこんなナリしてる俺のこと怖いだろ?本当、嫌なら今からでも断ってくれて良いから。まぁ、勉強教えてもらおうって頼んでる立場でこんなこと言うのも偉そうだけどな」

「そ、そんなこと……」

「俺が散々いろんな噂されてるのはさすがに知ってるからさ。白咲さんが俺のこと怖がってるのももちろん知ってる。でも、他のやつは目合っただけで逃げられちゃうし、そんな調子だから俺も友だちいなくてさ。他に頼める人もいないんだ。だから白咲さんに思わず頼んじゃったけど……。迷惑だよな。寝過ごしてこんな時間まで待たせちゃうし、怖がらせちまうし。勘違いさせちゃうし。俺やっぱダメだ。本当ごめん。やっぱやめようか」


川上くんは困ったようにそう言って、教室を出て行こうとする。

わたしは、なぜかその後ろ姿に声をかけていた。