「ねえ、疲れた。今日はもう帰ろうよ。」

「いいね。早退して箱根とか行っちゃおう。」

高校三年生の10月。

急に寒くなり、冬の訪れを感じて焦るころ。

私たち三人は体育終わりにジャージをパタパタと仰ぎながら、達成されそうにない目標に花を咲かせていた。

「箱根行ったら、必ず行くお店あるんだよね。」

「まじ?自分箱根エアプだわ。」

「どんなお店?」

「おいしいとんかつ屋さん。」

「箱根ってとんかつが名物なんだね。知らなかった。」

「卵と箱根細工と温泉だけだと思ってた。」

「いや、別にそのお店がおいしいってだけだと思う。」


なんて平和な会話だろう。

よどみなく流れる会話と、ほてりが抜けていくからだ。

きっとこの日常が幸せってことだと思う。

奇跡よりも幸せのほうが優しいよな。

だって幸せはきっと毎日どこかしらに転がっているし。

自分ってラッキーかも。

神様ありがとう。
奇跡なんて見たことないし、どんな姿か知らないけど、幸せならよく知ってます。

どこの宗教にも属してないけど、心の中でお礼を伝えた。

「で、何派なの?」

ボケっとしていたら急に顔を覗き込まれて、質問された。

「え、宗派ってこと?特に何も信じてないよ。」

「えっと、頭大丈夫?」

どうやら、揚げ物のトップを決める議論が二人の間で交わされていたらしい。

「ごめんごめん、ぼけっとしてた。」

「で、何派?」

さっきから何派botと化している人がいる。

少し考えた後、こたえた。

「サツマイモの天ぷら。」

「「ないわ。」」

「え!!」

両脇から批判を食らう。

いや、おいしいだろ。ふつうに。

「やっぱり、から揚げでしょ。」

「いや、とんかつ。」

二人の意見もわからなくもないな。

「サツマイモのてn「「ないわ」」

自分も話に入ろうとしただけなのに一刀両断される。

なんて悲しい。



なんて幸せ。