ある日の登校中。
「ねえねえ、ゆみちゃんの好きな男の子っている?」
はあ、またまたこの質問ですか。
もう何十回されたことか。
「いませんっ。」
「またまたそう言って〜〜ほんとはいるくせに〜〜。」
「い・ま・せ・ん!」
「そんなこと言ったら、ゆみちゃんとの恋バナ、百年後になっちゃうよ〜」
百年後は、もう二人とも百十一歳です!多分、生きてませんっ!
「あ、そうそう。くららちゃんの好きな男の子は?」
「あらら〜それ聞いちゃう?私の好きな男の子はね……ひ・み・つ!」
聞いて、秘密ですか……
「それにしても!昨日、くららちゃんのせいで大変だったんだよ!(しょう)先輩……だっけ?のファンクラブの人たちに質問攻めにされまくってたんだから!」
「ありゃ〜それはごめんっ。でも、抱かれてた時ののゆみちゃん、可愛かったよ〜〜。」
そういう問題じゃないんですよ。
「でもね、くららちゃんの幼馴染に救われちゃった。」
「え……海斗(かいと)?」
「うんっ。本当に感謝〜〜。って、くららちゃん、熱でもある!?顔も耳も手も真っ赤だよ!?今の季節、冬だよ!?大丈夫!?」
「うち、そんな顔しとる!?」
「熱!?大丈夫!?どどどどうしよう!」
「あー、熱じゃない。違うの、これはね……」
と言って、私の耳に口を近づける。
「私ね、海斗(かいと)のこと、好きなの。」
「え、えええええーーーーーーー!!!!」
「声が大きいって!」
「くららちゃん、頑張って〜〜!!私、応援するから!」
「あ、ありがと……」
こんなに真っ赤なくららちゃん、初めてみたなあ。
可愛いかも。
海斗(かいと)くんと、幼馴染なんでしょ?海斗(かいと)くんも、くららちゃんのこと好きかもねっ!」
「ゆみちゃん……いつの間にか、下の名前で……」
あ、と私は驚く。
あれ、最初は苗字だったはずなんだけどなあ。
おかしいなあ。
「ね、おおおおおお付き合いはしてないよね!?」
「へ?なんでそうなるの?」
「だだだだって、人見知りゆみちゃんが、早々と下の名前で読んでるんだから!」
「それは私も不思議!なんで下の名前でよんでんのか意味不明!でも、付き合うわけないじゃん!」
「そそそそうだよね。よかったあ。」
「はあ、疑いすぎだってば、いくらなんでも、初対面で付き合うわけな……ぎゃっ」
やばい、石ころにつまずいた……!
そのまま、両手が塞がっている私は、おでこを地面に衝突―――かと思ったら。
「危ないっ!」
誰かに支えられてる……!
「ご、ごめん、くららちゃんだよね……ありがと。」
と言って、私は顔を上げる。
「えええ!?くららちゃんじゃ、ない!?ごめんなさい……私がドジでした。って、し、(しょう)先輩!?」
「この前、ぶつかった子……だっけ?ごめん、あってるかな?」
「ふ、ふぁい!」
恥ずかしいし、おまけに噛んだ……
「うちのファンクラブが迷惑かけた。すまん。あいつらには叱っておいた。」
「い、いえ……」
「名前、何?」
百海由美(ももみゆみ)です……」
「ふーん。ゆみちゃんか。」
「はひ。」
うう、また噛んでしまった……
それにしても、イケメン……!
「可愛いな。」
「へ……?」
そう言って、私の頭をポンポンッと撫でる先輩。
か、かかか可愛いって……!
そんな、めっそうもないデス……!
「し、(しょう)先輩って、六年生ですか?」
「うん、そう。ゆみちゃんは……五年生かな?」
「せ、せゆかいデス……」
ああ、またまた噛んだ……
超恥ずかしいっ!
「おーい!(しょう)〜!女といちゃいちゃしてないで、早く学校行くぞ〜!」
「あ〜ごめん、今日はこの子と登校するから、先行ってて〜!」
ええええええ!?!?!?
しかも、いちゃいちゃだなんて!!
「そ、それは、くららちゃんに許可をとってか……」
そう言って、くららちゃんに顔を向けると、手にグッドマークが。
ううう、本当に、一緒に登校しなきゃいけないの……
「あの、ファンクラブの方は……」
「あ、その辺は平気。僕から言っとけば、あの子達はそれに従う。」
あ、そうなんですね……
それじゃあもう、回避のしようがないです。
「じゃあ、うちは学校早めに行ってるから、お二人で楽しんでて!」
ぎゃあ、くららちゃんまでいなくなったら、もう、人生終わり。
「し、(しょう)先輩……ごめんなさい。」
「なんで謝る!?どうした!?」
「だって、こんなに人気の翔先輩に、迷惑ばっかり……」
「いや、全然大丈夫だよ!?」
ん……?なんでこんなに驚いてるんだ……?
しばらく、沈黙が続いた。
「なあ、ちょっと手かせ。」
「え?あ、わ、わかりましたっ」
先輩はそう言って、私の手に、何かを乗っけた。
「お守り。」
「ふぇっ。あ、ありがとうございます……」
「別に、これは……ゆみちゃんのためとかじゃなくてっ……その、ゆみちゃんがドジで心配で……」
そう言って、顔をそらす先輩。
「でも、なんでこんなの持ってるんですか?」
「あー、今日、ファンクラブの子にあげようとしてたやつ。でも、また後日ってことにしとくわ。」
「え……いいの?」
「いいって、この僕が言ってんだから、いいってこと!」
そう、先輩はぶっきらぼうに言った。
わ、私、嫌われた?
「ご、ごめんなさい……」
「謝るなって!その……僕は、ゆみちゃんが謝ったりしてるとこ……みてるとなんか、こう、嫌な気分になる……」
「うわあっ、ご、ごめんなさいっ!!って、また謝っちゃいましたっ!本当に、すみません……あわわ……!」
謝ってるのが嫌だっていうのを、どう謝ればいいの……
「別に、いい……」
先輩はボソッと呟くと、顔を逸らしてしまった。
それからまたしばらく沈黙が続いた。
「きゃあ、(しょう)先輩!!……となりの女、誰?」
ファンクラブの人かな……?
「ん?ああ、あゆみちゃん。気にしないで、僕の彼女だから。」
かかかかかかか彼女っ!?
「は?いつ作ったわけ?ねえ、あんた、なんで(しょう)先輩を奪ったわけ?ねえ、教えろ!」
「あゆみちゃん、暴言はやめようか、ねっ。」
翔先輩、不穏なオーラが出てますよ……
私は、この隙に、学校へ……
「ストップ。ゆみちゃんはここにいて。」
うう。バレますよね。
(しょう)先輩、でも、いきなりすぎますよ……だって、ファンクラブまで作って、私たち、(しょう)先輩の彼女になりたかったんですよ……」
「それは僕の勝手だろ。僕だって、恋心はあるんだから。行くよ、ゆみちゃんっ。」
「ふ、ふぁい!」
本日、四度目の噛みです。
「さっきはすまん。その、た、ただの話だから。き、気にしないでくれ。」
「う、うん……」
そうだよね、私が(しょう)先輩の彼女なわけないですもん。
でも、なんかちょっと、フクザツ……
って、何考えてるのよ私!バカバカッ!
「じゃあ、ゆみちゃん、また会おうね。」
はっ!もうここは学校だ!
「は、はひ!ま、また今度……?」
本日、五度目の噛みです。
また今度って、どう言うことだろう……?
もう、(しょう)先輩に会える機会なんてなさそうなんだけどな……