「皆上くん……」
 たどり着いたバス停にはまだバスが来る気配がない。
 暗闇のなか、オレンジ色の街灯だけがポツンと光ってる。
「まだ来ないな。そうだ。待ってるあいだに、ちょっとオレのダンスでも見てく? 街灯がちょうどスポットライト代わりになるし。碧葉がオレの最初の観客になってくれたらうれしい」
 茶目っ気たっぷりに笑う皆上くん。
 その笑顔に誘われて、私はついうなずいた。
 皆上くんは夜風に身をまかせ、両手を大きく広げる。
 少しくすんだオレンジ色の街灯に照らされた皆上くんの身のこなしはとっても軽やかで、やっぱりいつもの皆上くんとはちがう。
 言いかたはちょっと大げさだけど、まるで突然あらわれた精霊みたいで、なんだか心が大きく揺れた。
 なんだろう、この気持ち。
 うまく言葉にできないけど、どんどん身体じゅうにあふれてくる。
 だんだんバスの音が近づいてきた。
「お、やって来たか」
 皆上くんは踊るのをやめると、私に軽く頭を下げてその場から離れようとした。
「皆上くん……」
 心臓がドキドキしてる。
 どうしたんだろう、私。
 バスに乗らなくちゃいけないのに。
「待って!」
 つい、皆上くんを呼び止めた。
 バスはそのままバス停を通過していく。
 だけど、今はそんなことどうでもよかった。