明里は自分の席に鞄を置いた後、窓を開ける。温かな春の風が教室中に入り込み、カーテンがふわりと動く。朝の空気を明里は胸いっぱいに吸い込んだ。春風はどこか甘く感じる。

「幸せ」

そう呟き、明里は深く息を吐く。この瞬間が明里はとても好きだ。

明里は普段の学校生活では、友達と話し、一緒に行動することが好きだ。しかし時折り一人になりたいと思うことがある。そんな時に思い付いたのが、この朝早く学校に来て何も考えずにぼんやりとすることだった。

最初は明里一人だった教室が、時間が経つにつれて賑やかになっていく。そんな瞬間を眺めるのが明里は好きになっていた。

教室のドアが開く音がする。明里は少し驚いた。まだ時間は七時四十五分だ。普段この時間に来る生徒はいない。

「瀬戸さん、おはよう」

背後から聞こえた凛とした声に、明里の頰が赤く染まっていく。胸がマラソンをした後のように早く鼓動し、うるさくなってしまう。明里はゆっくりと振り返った。