私には恋心が芽生えた、それはちょっと遅めな高校2年生のとき。私は地味で黒髪おさげで、丸メガネをかけてる・昭和女子。名前は鈴木(すずき)三乃葉(みのは)。今風に言えば陰キャ女子?三軍女子?それさえわからない、流行りに乗っていない女子だ。
そんな私は、いじめを受けているわけでもない。ハブられているわけでも、パシリにされてるわけでもない。ただ、地味で近寄られ難いというだけ。なのに、中学から高校まで友達がいたことすらなかった。
幼稚園だって小学生だって友達ができても、こんなオドオドした性格だからみーんな離れてく。
そんな私の恋心とやらが芽生えたのは、いつも通り先生から頼まれた次の授業でつかう教材を資料室から取りに行った帰りだった。
山積みのプリントを持ち階段を降りようとしたら、階段の石につまずいた。
(え?え?校内だよ?なんでこんな石があるんだよ。)
そんなことを考える暇もなく私は見事にこけた。幸い怪我もなくプリントが飛び散っただけ。
もうあちこちに散らばっていて、急いでかき集める。
するとそんな鈍臭い私にたまたま通りかかった彼は優しく声をかけてくれた。
「大丈夫!?手伝うよ!」
「あわわわわわ!すみませんすみません!あ、ありがとうございます」
彼がきてくれたことによってプリントはすぐ集まった。
「こんな重いの誰が持たせたのさ」
え?えーっと……確か……
「た、田中先生。」
「あー、田中かー。真面目だからって女子にこんな多い量のプリント持たせやがって一」
ほんとだよ!そう叫びたくなった。
「で、でもそこで少しこけただけだし、怪我もないから大丈夫。本当にありがとうございました。迷惑かけちゃってごめんなさい。ではこれで……っ!」
私は一刻も早くその場から立ち去ろうとした。
家族以外の誰かと喋るなんて、久しぶりすぎる。ましてや男子!その空気がとてつもなく不味かった。ピーマンよりもゴーヤよりも。
「あ!まって!」
「は、はい?」
「こんな重いのもう一度持たせるなんてできないでしょ。」
そう言って彼は山積みのクリントをひょいと持ち上げスタスタと教室へ運んでくれた。
あー!ほんとに助かった!
私は彼に最後深々と頭を下げた。
彼は、
「いいのいいの!これくらい!」
と、いい手を振って立ち去ってしまった。透き通っていて、今にも消えそうな白い肌。その上にパッと、ひまわりが花を咲かせたかのように浮かべた笑顔。その時少し、ドキドキと心臓が高鳴った。
あれ?なんだこれ?
とにかくその彼とはもう二度と関わりがないだろうと思い、数日後には彼の存在なんて忘れてしまっていた。だって違うクラスだし。
そして月日は流れ、いよいよ高校三年生になった。そう、私たちが最初に立ちはだかるイベントは……クラス替え!
まあ、私はどうせ友達もいないし、関係ないんだけど。
そんな感じのいつも通りな気持ちのままクラスへと向かう。
えーと、三年C組かな?
私はガラガラガラッと音を立てて教室のドアを開けた。
そして、あらかじめ知らされていた席につこうとする。
でも私は教室に入ることができなかった。足が動かなかった。
「な、なんでここにいるの……!?」
思わず声に出してしまう。
「んー?ああ!あのプリントぶちまけちゃった子か!おんなじクラスね!今日からよろし
く!」
いつもは私が一番のり。なのに今日は二番目。
確かにそのことにも驚いなけど、まさか同じクラスになるなんて。
まあ私は動揺しながらも
「その節はどうも……よ、よろしくお願いします。」
とだけ言い、自分の席につき小説を開く。でもまた手が動かない。開けない。なぜかって?なぜなら私の席の前に彼がいるから。
「ヘー?小説読むんだ?」
「まあ、読みますけど……。」
「ヘー!おすすめとかある?最近本読んでないから久しぶりに読もうかな~」
それを間に受けた私は、
「えーと!初めてならこの『僕と一緒の夏休み』が、わかりやすいかもですね。それか、少し読む程度でいいならこちらの『窓の外には知らない世界』が読みやすいかも。他にもじっくり読みたいなら……って!あ!すみません……。」
(あわわわわわっ……!!)
本について話すなんて久しぶりだから、つい喋りすぎちゃった……。
引かれたかな……?
私は何度もペコペコとする。でも彼は、
「あははっ!そんなに好きなんだね!ありがとう!少し探してみるね~」
と、ニコニコ笑ってくれた。
「そういや、君、名前は?」
「……っ!?名前……ですか?えっと……鈴木(すずき)三乃葉(みのは)って言います……!」
三乃葉(みのは)ちゃんか。かわいい名前だね。僕の名前は花鉢(はなばち)一誠(いっせい)。よろしくね、三乃葉(みのは)ちゃん。」
私はその笑顔に完全に堕ちてしまったようで、、、顔が真っ赤になったのを自分でもわかった。
でも、その瞬間、ドタドタと他のクラスメイトが入ってくる音が聞こえた。いても経ってもいられなくなったわたしは、
「お、お手洗いに行ってきます!」
と、叫びすぐさま教室を出て行ってしまった。
(なになになにー!?あの笑顔は!?あの声は!?)
名前を呼んでくれた!教えてくれた!
私はトイレに逃げ込み真っ赤になった顔をチェックした。やっぱり赤い。
でも、その真っ赤な顔は丸メガネおさげの地味女には似合わない。
少し自分の見た目にがっくり肩を落としていると、チャイムが鳴った。
(あ!やばい!遅れる!)
帰り道、クラス替えだけで学校は午前中で終わりのため、家に帰ってコンビニで買ったお弁当を食べる。そのためコンビニに駆け寄った。
コンビニではお弁当コーナーの横にコスメコーナーがある。今日は初感でも簡単な、コンタクトと、ノーメイクに見えるマスカラ。それとほんのり色付きリップがある。私は朝の自分の姿を思い出しある決断をした。
その次の日から私はメガネを外しコンタクトへ。地味なおさげもほどき、ストレートヘアにして昨日のコンビニで買ったマスカラとリップを塗り、お姉ちゃんのファンデーションだけ借りようとした……のだけど。
「なにやってんのー!?」
(げ!お姉ちゃん……!?)
「ちょっとイメチェン……みたいな……?えへへ。」
なんとか笑って誤魔化そうとする。
「えー!あんたがメイクなんて珍しい!……ははーん。」
(ひいっ、その笑顔!怖い!)
「まあ、何はともあれこのお姉様がメイクをしてやろうではないかぁ〜」
「いやいやいや、大丈夫!本当にいいから!」
「自分でできるの?メイク経験ゼロのあんたが?」
「……うう。」
「はーいはい、遠慮しないで、ちゃんと言いなさい!あと、勝手に借りようとしない!お姉ちゃん、いざとなったら妹の恋心くらい叶えさせてあげれるって!はいはい、それじゃあやるわよ。」
まあ、そんなこんなで、お姉ちゃんにメイクをしてもらった。
「これでモテモテだなっ、今日1人以上は告白されるとみたぞ!!」
「……姉バカ。」
私はそう言って、呆れながら学校へ行った。
でもなぜが、何かがいつもと違う。
周りからのすごい視線。
私はみんなに注目された。
なんで!?見た目だけでそんなに変わるわけ!?
(姉の力……恐るべし……!)
「あの、三乃葉(みのは)さん……っ!」
「は、はいっ!なんですか!」
「好きです!」
「……はい?」
私はポカンとする。
「なんだか、三乃葉(みのは)さんってこんなにかわいいんだなって……思って。」
でも、一番びっくりしたのはこれ。
喋ったこともほとんどない男子に、告白されたの。
しかも一人じゃない。三人に。
みんな、見た目だけで私のことを好きと言ってくるなんて。
嬉しいけど……でも断った。
私には好きな人がいるから。
私は色々な人に告白されるたび、断るのに胸が痛む。そして早く彼に告白したい気持ちが高まった。もちろん早いのはわかっている。
でも自然と私は彼の席に向かって行く。
すると彼は、
「イメチェンしたんだ!いいねー!」
とめてくれた。
やっぱり顔に熱が集まる。
私は「ありがとう」とだけ言い、またトイレに駆け込んだ。
トイレの鏡で顔を確認。昨日よりかはまだかわいい。
私は彼の方に戻る。
でも彼はいなかった。
私は色々なところを探し回り、ついに体育倉庫まで来てしまった。体育倉庫を覗くと、彼がいる。
私は彼がいる体育倉庫に駆け込もうとした。
でもできなかった。
また足がすくんで動けない。私は彼がいると動けなくなることが多い。
でも、一番足が動かなった理由はこれ。
その彼はある女の子と一緒にいたから。
何か話してるみたい。でも、盗み聞きは良くないと思った私は、早々と家に帰った。
「告白はまたあしたにしーよぉっと。」
そう呟いた。
私はあの時、体育倉庫の片付けをしているだけだと思っていた。
そんな私がバカだった。
次の日学校に行き教室にいると彼が廊下を歩いてくる。私は駆け寄ろうとしたけど、途中で足がピタッと止まる。
確かに前まで、彼がいる空間には入るのが困難だった。でも今回は横をすれ違うことすらできない、強い金縛りに合っているようだった。
なぜなら、隣には昨日体育倉庫にいた女の子がいる。手を繋いで歩いる。その時、私は確心した。
昨日2人であそこにいたのはどちらかが告白していたからなのだと。
その2人が付き合っているという噂は学年関係なくまたたく間に知れ渡っていった。
そこで衝撃的な事実を知ることになる。
告白したのはなんと彼の方からだったというのだ。
話によれば2人は幼馴染で小さい頃から両片思いだったらしい。でも、彼は彼女が自分のことを好きだという噂を開いたらしく思い切って告白。そうして付き合い始めたそうだ。
ちなみに彼がその噂を聞いたのは、私が彼にプリントを拾い運ぶのを手伝ってもらった日。
つまり、出会った日だったのだ。そう、私が彼のことが気になり始めた時。少しでも彼が私に気があると勘違いしてしまった日、、
私は全身力が入らなかった。そして、初めて体調不良を偽り学校を早退した。
確かに分かっていた。人気者の彼と陰キャの私が釣り合うはずがない。でもそこに少しでも期待をした自分が馬鹿らしい。
帰ってくると頭を冷やすため、真っ先にシャワーを浴びる。
自分で自分が少しでも可愛くなったと自惚れていた。彼の言葉を間に受けて舞い上がっていた。そんな私が虚しくなってくる。
私はシャワーと一緒に湯船に涙をこぼした。
私の流した涙だだけが、

チャポンと音をたてた、それは儚い夢と音だった。