クローン人間の僕と人間の彼女

残された時間が分からない俺は、少し笑って流す。


「俺、もう一軒行ってみるわ」

「あぁ、頑張れよ」


功太が帰った後、何気なくテレビを付けると、そこにはあの男が映っていた。

俺達と同じクローン…。

”速水海”


去年も病室のテレビで見たこの男は、世界記録保持者だ。

少しだけ、羨ましくも妬ましくも思える。


「それでは、速水選手にオリンピック向けての意気込みを、聞いてみたいと思います」


オリンピックに出るのか。
世界記録保持者じゃ、当たり前だな。


「速水選手、オリンピックももう目の前ですが…」


その時だった。


「俺は好きで泳いでるんじゃないっ!泳がないと生きていけないから、ただ泳いでるんだっっ!」

「え~、速水選手はオリンピック目前で気が立ってるようですね…」


アナウンサーは慌てて画面を切り替えた。


俺は笑った。


”速水海”


コイツも俺達と同じだ。


違うのは、スポットライトを浴びているか、浴びてないか…。
それだけだ。


コイツにかけるしかない…。


俺は売店に行き、レターセットとボールペンを買った。


一晩考えて、手紙を書いた。


速水海宛の手紙を…。