クローン人間の僕と人間の彼女

翌日、仕事に行くと今岡が言った。


「森本くん。今日から職場移動になったから」

「…何処に…ですか?」

「B4だよ」

「B4…」


呆然とする俺をよそに、傍で聞いていた近藤が怒り声を上げた。


「今岡ー!どういう事だよ?!」

「お前が昨日、勝手に早退させたからだろ?」

「事情が事情だろっ?!勝手な事言うんじゃねぇよ!取り消せよ?!」


今岡は近藤を見下ろすように、少し笑って言った。


「社長命令だよ」

「……」


近藤は俺の所に来て、小声で言う。


「…すまない」

「いいんですよ」


それは強がりでも何でもなかった。

正直な所、少しホッとしていたのかもしれない…。



同じ日に入社した功太がB4に配属され、功太が辛い仕事をしているのを知り、功太への罪悪感が無かった訳でもなく、だからと言って自分から功太を助ける勇気も、そこに飛び込む勇気さえも無かった俺は、ホッとしていたのかもしれない…。


「じゃあ行くぞ」

「はい…」


俺は今岡に連れられB4へと向かった。


出世して人間を見返す目標も


近藤とクローンの奴らを助ける目的も



全てを失って、真っ暗な世界のB4へと向かった…。