「ただいま」


いつも出迎えてくれる、お袋の姿が無い…。

普段はウザイと思っていても、それが無いと気になるものだ。

部屋は真っ暗で…。


「…居ないのか?」


俺が電気を付けると、お袋は台所のテーブルの椅子に、チョコンと座っていた。


「お袋…?」

「…んあら、けんちゃん帰ってたの?ごめん、ごめん…」


いつもと違うお袋の様子に、少し戸惑った。


「親父は?」

「……」

「又釣りの帰りに飲みに行ったの?」

「……入院したのよ」

「?!」

「……けんちゃんと昨日約束したからって、病院に行ったの」

「それで?」

「……癌だって」

「…治らねぇの?」

「お父さん、治療が嫌だって聞かないのよ…。治しても、後10年も生きられないだろって」

「俺、病院に行って説得するよ!」


お袋は力強く、俺の腕を掴んで言った。


「…お父さんの気持ちを尊重してあげましょ?」

「でもっ」

「お父さん、明日の検査が終わったら、家に帰って来るわ。けんちゃんはいつも通り、接してあげてね」

「そんな事、出来る訳ねぇだろっ!?」

「お父さん、けんちゃんに心配を掛けるのが、一番辛いんだって…」